翻刻
飲もの喰ものたへてなしこゝにそば切うる家酒うる家二三戸あり
むさくきたなけなれはしたゝめせす酒うる宿のあるしいふいにしへ
はこゝに参る人多かりしが今はさびたりたま〳〵参る人もこゝにて
ものしたゝむることなき故何ひとつ貯はへず我らかくふべき飯の
あるをそれにても参らせんと聞ゆさらばそれにてもものせよと
いへば菜の漬ものにしたると豆腐のかすいりたるとを皿にもりて
すゝむはらいたふすきたればいと〳〵うましものにまされる
心地し侍り
木下川やくし大門の松並を出はなれ中川の岸堤の上を行
東南打はれて景色いとよし上平井の渡しをわたらすして
川のこなたをゆくてに梅数〳〵ありときゝしかば今日はそれ
見んとてこゝに来りしに道行人の梅は《見せ消ち:平|下》平井にあり
向ひにわたりて行ぞよきといひしにあさむかれてかしこの梅は
見ず成ぬやかて下平井に梅ある所ありやときゝしかどなし本
意なくてよしなきおのこがあるひだてよとつぶやき〳〵かへりぬ