翻刻
《割書:十一めん|ぎんすの| きやく》《題:三拾三番 みのやたにぐみ》#1
今まではおやとたのみしおゐらんを
をいてわかるゝさとのねんあき#2
善悪(せんあく)無差別(むしやべつ)。鬼仏(きぶつ)原(もと)
一つ体(たい)なり。しやかにだいば
太子(たいし)にもりや花にあらし
あつてむじやうをくわんじ
月にむらくもあつて
会者定離(ゑしやぢやうり)とさとる
和尚(おせう)はこれ色中(しきちう)の餓鬼(がき)
婬婦(いんふ)かへつて五 戒(かい)の媒(なかだち)と
なる三十三ばん苦海(くがい)の
じゆんれいうたは一 時(じ)の
ざれことゝいへども恋(こひ)はむじやうの
たねぼんのうぼだいのはじ
まりなりこれを思ひこれを
さとらばみだのほうべん
おのつから此うちに
あるべし
馬琴戯作
現代語訳
《割書:十一面、銀子の客》《題:三十三番 美濃屋谷汲》
今まで親と頼みし老いらんを置いて分かる里の念仏
善悪無差別。鬼仏元一つ体なり。釈迦に提婆、太子に守屋、花に嵐があって無常を観じ、月に村雲があって会者定離と悟る。和尚はこれ色中の餓鬼、淫婦かえって五戒の仲立ちとなる。三十三番苦海の巡礼歌は一時の戯言といえども、恋は無常の種、煩悩菩提の始まりなり。これを思いこれを悟らば、弥陀の方便おのずからこの内にあるべし。
馬琴戯作