翻刻
濁世(しよくせ)の人間此難(にんけんこのなん)をのがるゝもの稀(まれ)なり聊信者(いさゝかしんじや)
有(あり)といへども前世(せんせ)の因(いん)を逃(のが)れがたしはる〳〵
来(きた)り此所(このところ)に落命者少(おはしんものすくな)からず然(しかれ)共|弥陀(みた)の本願(ほんくわん)
普(あまねく)して悉(こと〳〵)く亡者得解仏果(もうじやとくだつぶつくわ)を得(え)せしむべし
疑(うたか)ふ心(こゝろ)有べからず見よ〳〵|今(いま)にと曰(のたま)ふと思へハ
忽天地震動(たちまちてんちしんとう)し轟音(とゝろくおと)すさまじ既(すて)に此堂(このどう)も
ゆり崩るゝかと思ひければ彼者御僧(かのものおんそう)の袂(たもと)に
すがりて堂前(とうぜん)にあゆミ
三衣(さんえ)の袖(そで)のすきより四方(よも)
のありさまを見渡(ミわた)す内(うち)
又大(またおほい)に震(ふる)ひしかバ目(もく)ぜんに
坊舎(ほうしや)をはじめ民家旅宿(ミんかたひやと)
残(のこ)らず将棋倒(せうぎたを)しに悉(こと〳〵)く
震崩(ふるひくづ)せハ是(これ)が為(ため)に押(おし)に