翻刻
学問(がくもん)を大ひに勉強(へんきやう)せしあとで多年(たねん)の
経験(けいけん)【左ルビ:タメシ】を遂(とげ)た処でなくては時計の学
問(もん)の知識(ちしき)をひらくといふ事を了解(りやうげ)【左ルビ:サトリ】せぬ
時計を仕入(しいる)る人が甚(はな)はたしば〳〵日本
のあつらへの気(き)にむくやうに極下等(こくかとう)
の種類(しゆるい)の時計(とけい)を安直段(やすねたん)にて売(う)る為に
持(もち)わたる其ゆえは日本の時計|職人(しよくにん)か纔(わづか)
なる間に於てなるべきたけ勉強(へんきやう)を積(つみ)
てよき細工人(さいくにん)にならんが為め而して十
分に器械|製造(せいそう)が出来るやうにならん
ため及び時計の世話(せわ)が手がるになさる
る為め而して修行(しゆけう)をはげまん為に前(ぜん)
段(だん)のごとき時計を誂(あつらゆ)る
蒔絵(まきゑ)のうるし細工(さいく)の手際(てぎは)ならひに七宝(しつほう)
やきの手際(てきわ)とすべての細工の手際が
おなじくある其細工を日本の人が巧者(かうしや)に
製造(せいさう)仕(し)あぐる夫ゆえに欧羅巴人(いようろつはしん)が 歎(たん)【左ルビ:ホ】
美(び)【左ルビ:メ】しておどろく其|細工(さいく)はひさしくかゝる
而(さう)して職人(しよくにん)の不勉強(ふへんきやう)をあつく勘弁(かんへん)する
事をのぞむ及ひ其細工の元入(もといれ)の失費(しつひ)【左ルビ:イリメ】と