翻刻
と欲(ほつ)する人は形容(けいよう)【左ルビ:カタチ】ばかりよく見(み)へて
器械(きかい)の悪(あ)しき時計ではなくまつたく
正しき出来(でき)あがりのよき時計(とけい)を買(か)ひ
需(もと)めんとするに至りてはいづれの所(ところ)の
いかなる時計屋(とけいや)へゆきて買(かは)ねばよき
時計を買(か)ふ事の出来(でき)ぬといふ事を
誰(たれ)も〳〵よく知覚(ちかく)【左ルビ:シリ】して居(ゐ)るやうに成(な)
りたり
「ドボワー」といへる佛蘭西国(ふらんすこく)の高名(かうめい)なる
時計師(とけいし)が書(かき)しるせしには時計細工(とけいさいく)の
持主(もちぬし)がこのニ三年このかた時計専売(とけいせんばい)
に付|目(め)に見(み)へて人より金(かね)を奪掠(だつりやく)【左ルビ:ウバヒカスメ】す
るがごとき不実(ふじつ)なる所行(しよげう)を多(おゝ)くせ
ぬやうに成(な)りしといへり及び我等(われら)に
て時計(とけい)のゑらみやうの教導(けうだう)してさ
し示(しめ)すには前條(まへのくだり)にもつまびらかに説(とき)
解(さと)したる如く十七|形(かた)十八|形(かた)の時計を
よき持頃(もちごろ)なる時計(とけい)なりといひたるは
唯時計師(たゝとけいし)の利益(りえき)をむさぼらんとのみ
する為(ため)にはあらずして其|持料(もちりやう)に買(か)ふ