翻刻
人の永(なが)く用(もち)ひて重宝(ちゆうほう)となるべきやう
にふかく注意(ちうい)する事しかり
前條(まへのくだり)に奪掠(だつりやく)するがごとしといへるは
すなわち爰(こゝ)に書記(しよき)する処の次第(しだい)
なり《割書:それは最早ほとん|ど三年になれるなり》懐中時計(かいちうどけい)および
懸時計(かけどけい)につきたとへは欧羅巴中(ようろつばちう)に
おゐて四分|製造(せいざう)するものならば凡(およ)そ
其三分を佛蘭西国(ふらんすこく)において売却(ばいきやく)せり
而(しか)して懐中時計(くわいちうとけい)および掛時計(かけとけい)は大(おゝ)
略本業(かたほんぎやう)なる時計師(とけいし)におゐて販売(はんばい)【左ルビ:ウル】な
したり其|頃(ころ)の景況(ありさま)と目今(いま)の形勢(ありさま)とは
甚(はな)はだ変化(へんくわ)せり其わけといふは
ランプ屋または道具屋(とうぐや)。小間物屋(こまものや)。中買(□□しよう)。
書籍屋等(ほんやなど)の見世(みせ)に於て時計(とけい)を販売(はんばい)【左ルビ:ウル】
するやうに成(なり)たり是(これ)すなはち古今商(ここんしやう)
業(げう)の変遷(へんせん)【左ルビ:ウツリカワリ)】を示(しめ)す処なりまた佛朗西(ふらんす)
にて製造(せいさう)なしたる時計(とけい)を外国人(くわいこくしん)か持(もち)
わたりて其|品(しな)をうり捌(さば)かんと致(いた)せし
処其|時計(とけい)を人が買(か)はぬといふて嫌(きら)ひ
断(ことわ)られたり