翻刻
時計(とけい)を買(か)わんと欲(ほつ)して来(きた)れる人を
日ごとに欺(あざ)むかんが為(ため)に用(もち)ゆる最(もつ)
ともいやしむべき甚(はな)はた恥(はづ)べき狡(こう)【左ルビ:ワル】
黠(かつ)【左ルビ:カシコキ】なる仕方(しかた)を為す事を総(すべ)て左様(さやう)
にわれ〳〵が知覚(ちかく)【左ルビ:サトリ】して居(ゐ)る事が未(いま)た
此|外(ほか)にもあるなり
時計を商売(しやうばい)せんとおもひたつ人は
懐中(くわいちう)時計あるひは懸時計(かけとけい)の姿形(すがたかた)ち
のみ時計(とけい)の形容(かたち)をなして居(ゐ)る時計を
売(うら)んか為に製造(せいざう)する其|時計(とけい)に
於ては器械(きかい)が甚(はな)はだ粗造(そざう)に仕上(しあ)げ
たるそのゆえ誠(まこと)の用(やう)にはたゝぬもの
なり而(さう)してもしもまた其|時計(とけい)がた
とへ運動(うんどう)をするといえども誠(まこと)にしば
しの間(あいだ)ほか運動(うんどう)の連続(れんぞく)をひたも
たぬなり
時計(とけい)を商(あきな)はんとおもふ人が「瑞西国佛(すいすこくふ)
朗西国英吉利西国(らんすこくいぎりすこく)」におゐて最(もつ)とも
高名(かうめい)なる時計屋(とけいや)の名を彫刻(てうこく)しておく
なり