翻刻
それをいかゞといふに時計(とけい)の器械(きかい)の車(くるま)
が油なしに運動(うんどう)なしつゞけるゆえに
直(なほ)しに於てはなはだむづかしく毀傷(やぶれ)を
生して其直し料(りやう)も至て高価(かうか)にいたる
事を発見(はつけん)すそれのみならず十分|旧(もと)
の如く直し得る事|難(かた)かるべし其時に
臨(のそ)みては時計師(とけいし)か毀傷(きしやう)せしといふてその
罪(つみ)を時計師に負(を)はしむいかがとなれは
其時計に修理(しゆり)を加(くわ)へしより修理(しゆり)を加へざ
る前(まへ)の方か時計の運動が宜(よろ)しかりし
ゆえなり然(しか)しながら前条(ぜんじやう)の事情(ことわけ)に
於て之(こ)れを察(さつ)すれは其|時計師(とけいし)を罪(つみ)す
るものが却(かへつ)て甚(はなは)た罪(つみ)あるべし今|是(これ)を
譬(たと)へていはんに夫|病(やまひ)を療治(れうち)せん為に
はかならす医者(いしや)を迎(むか)ふべし然(しか)あるに
医者(いしや)をまねくべきの期(とき)におくれやまひ
重(おも)くして終(つい)に不治(なをらぬ)の症(しやう)に至れると同日
の談(はなし)といふべしすなはち時計に於るも
亦(また)是(これ)にひとしそも〳〵時計は是(これ)肝要(かんやう)の
こゝろ懸(かけ)なり