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和尚のたまひけるは。我はもと日本の沙門也しが。求法(ぐほう)
の為に。支那(しな)国(こく)に年(とし)を重(かさね)てとゞまれり。今 我(われ)霊山(れうぜん)に
のぼり。尺尊(しやくそん)を拝み奉らん望(のぞみ)有とのたまへば。翁(おきなの)曰(いわく)なん
ぢに異相(いさう)あり。かならずその本意(ほんい)かなふべし。然(さり)乍(ながら)仏
の御入滅(にうめつ)年をへたり。たやすくおがみたまはん事
かたかるべし。もつはら生仏(しやうふつ)不二の観(くわん)をなさば。
蓋障(かいしやう)をはらつて。仏身(ふつしん)をおがみたまはんと。かた
りてゆきがたしらずなりしかば。和尚(くはしやう)おきな
のをしへしことく御観念(くはんねん)まし〳〵ければ。にはかに
山のひゞき。谷(たに)のこたへいかづちのなるがことくに
して。いと心よくすゞしき風そよぎて。木ずゑを
うごかし。地ふるふこと。水の上の舟のことし。いと
かうばしきくも。谷(たに)にみちて。異香(いきやう)てんに薫(くん)
じける。ありがたかりしけしき也。然る所に虚(こ)
空(くう)より一つの鉢(はち)まひさがりて。中(ちう)にうかひて十
方(はう)にひかりをはなちて道をしめしける。其ひかり
にて道(みち)をふみ分(わけ)。山のいたゞきにのぼり給へば。
すなはちむらさきの雲まひさがりて。釈尊(しやくそん)蓮(れん)
台(だい)に座(ざ)し給へは。観音(くわんをん)虚空(こくう)蔵(ざう)左右(さゆう)に座(ざ)し。鉢
万の大士(だいし)千の声聞(しやうもん)威神(いじん)儼粛(げんしゆく)にしてをの〳〵
集会(しゆゑ)に。つらなり給ひしよそほひ。有がたかりし
事共なり
現代語訳
和尚がおっしゃったのは、「私はもと日本の僧侶でしたが、仏法を求めるために中国に長年留まっております。今、私は霊山に登り、釈尊を拝み奉りたい望みがございます」と。翁が言うには、「あなたには霊的な相がある。必ずその本意は叶うであろう。しかしながら、仏の入滅から長い年月が経っている。簡単に拝むことは難しいであろう。ひたすら生きた仏と自分が一体であるという観想を行えば、障害を払って、仏身を拝むことができるであろう」と語って、行き先も分からなくなった。和尚が翁の教えの通りに観念を深めていると、にわかに山が響き、谷がこだまし、雷が鳴るように音がして、とても心地よく涼しい風がそよぎ、木の梢を揺らし、地面が揺れることは水上の舟のようであった。とても香ばしい雲が谷に満ち、異香が天に薫じていた。ありがたい光景であった。そうしているところに、虚空から一つの鉢が舞い下がって、空中に浮かんで十方に光を放って道を示した。その光によって道を踏み分け、山の頂きに登られると、すぐに紫の雲が舞い下がり、釈尊が蓮台に座しておられ、観音菩薩と虚空蔵菩薩が左右に座し、八万の大士と千の声聞が威神厳粛にして、それぞれ集会に連なっておられる様子は、ありがたいことであった。
英語訳
The monk said, "I was originally a Japanese monk, but have remained in China for many years seeking the Buddhist teachings. Now I have a desire to climb Mount Ryōzen and worship Śākyamuni Buddha." The old man said, "You possess spiritual qualities. Your original intention will surely be fulfilled. However, many years have passed since the Buddha's parinirvana. It would be difficult to worship him easily. If you concentrate wholly on the meditation that the living Buddha and yourself are one, you will be able to dispel obstacles and worship the Buddha's form." After speaking thus, he disappeared without a trace. When the monk deepened his meditation according to the old man's teaching, suddenly the mountains resonated, the valleys echoed like thunder, and a very pleasant, cool breeze stirred, moving the treetops, and the ground shook like a boat on water. Very fragrant clouds filled the valley, and exotic incense perfumed the heavens. It was a blessed sight. While this was happening, a single bowl descended from the void, floated in mid-air, and emitted light in all ten directions, showing the way. Following that light to find the path, when he climbed to the mountain peak, purple clouds immediately descended, and Śākyamuni Buddha was seated on a lotus throne, with Avalokiteśvara and Ākāśagarbha seated to his left and right, and eighty thousand bodhisattvas and one thousand śrāvakas arranged in the assembly with awesome and solemn dignity—it was truly a blessed sight.