翻刻
音通りを歴て蓮光寺といふ寺ハ己か実方伯母《割書:伯母ハ松平|
元七郎の妻》
《割書:にて御側衆を勤し筑後守後橒翁といふ人の母也|元七郎并橒翁等の墳も同まんなり》なれハ立寄て拝せしに
今の築後守《割書:橒翁の七男|惣領なり》もさすかハ貞実の人にてよく〳〵家政を守
りしかは石碑の倒れしをとく建直して見苦しからす《割書:当|今》
《割書:築後守ハ本所下屋敷に住居しこたひの地震に半潰れなれと先廟を麁畧|にせさる事感するにたへたり此蓮光寺墓所にハ松平伊豆守同備中守同美作守》
《割書:等の石碑あれともいまたいつれも|倒れしまゝにてさし置たり》かくて根津のうしろなる団子坂を
下り天王寺前へ至りしに此道すからハ破屋多く寺抔潰れ
しもまゝ見へたり頓て谷中門を入て上野御山内を屏風
坂の方へ行に御ついぢ抔も所々損し又宿坊ハ多くいたミて
門の倒れたるもあり屏風坂を下り坂本町を行に一丁目二丁
目ハ両かわ共皆焼たり三丁目ハ焼さるのミにて過半潰れたと
へ潰れさるも倒るゝはかりかたふきけり夫より金杉上下町
三の輪通り新町迄いつこも両かわの家大破ならさる
ハなし日本堤を歴て田町に出けるか新吉原町ハ世評の
ことくあさましき焼やう二て土蔵すらわづか二三棟なら
てハ残らす田町も皆焼と也此近辺に仮りゐすへき家なけ
れハ大見せ娼家ハ別荘抔へ立のきたらんか並々ならハせんす
へなくて仮りに長堤の左右へ板戸囲こも張やうのちいさき
家造りて遊ひ女をさし置も多かた実に目も当られぬ有さ
ま黍離の歎少しとせす夫より聖天町に出猿若町の直道を