翻刻
過出棺して赤坂の菩提寺へ葬送し仏事回向も終りて葬
穴に納めんと舁出今少しといふ頃地震ゆり出左右
前後の石碑とも倒れ掛り輿ヶき并附添のものも足抔
疵請からく穴中江投込て立たりしとなり然ㇽに立戻
りて見れば本堂ハとく崩れて微塵となりぬもし地震
今少し早ヶりせハ和尚を初め施主送りの人迄皆諸共
に横死せんにと其近親の人より聞たりも奇事と
いふへき也姓名等も能知りたる人なれと印し難し
此節関宿の城下町に住せるもゝの娘新吉原へ売女に売
れしか去年中相応の町人に請出され《割書:京橋に住ける|唐紙御用達也》しか此度
地震に家潰れておしに打れて知れざれを在所の母たま〳〵
尋ね来りてかくと聞しより忽ち絶倒しそのまゝ終に死
しけるかつくの日崩れし家財を取片付けるとてかの娘を堀出
せしに不思議に未た死しきらて息あらば気つけ抔あたへ
て蘇生したり今少し早く掘出しなば母も無難に有るべき
にと人皆かなしミしと云此話ハ己方に去年より奉公
せる関宿町人の娘ありて彼か親なるもの是を地震の安否
をきかせばやとて尋ね来りての物語りなり
八丁堀に住る有徳なる櫛屋あり其娘おとりを習ひて
わさも能出きし故おやども常に自まんしてゐたる二日