翻刻
の夜たま〳〵師匠の宅にてさらゐ有てかの娘も行たるか逃
おくれて即死せしかば其母聞て忽ち狂乱すといへり《割書:八丁|堀》
《割書:師岡氏の|はなし也》
深川蛤町にすめる旅あきなひする魚屋由蔵と云者あり
妻を婦みと云四才の子あり地震をのかれんとて見せ
先へ出しに往来湖水押来る行へき道なく兎角する
内家倒れしゆへ其棟にはひ登りて隣家の潰れ家の
中をかろうして一町斗りはいゆきて難なく三人とも助
りしかど跡は火事となりて灰燼となりしゆへ此節市ヶ谷
谷町のしるへの方に立退なれりと云《割書:谷町髪結所|にての咄しと云》
牛込寺町辺に居し夫婦に子と五人暮しのもの有しか地
震の為に弐人とも横死せしを入へき器なしとて大はん
切の桶にひとつに入同所御たんす町南蔵院に葬すと
云これらも命数とハいひなから憐むへき事也《割書:己か方へ出入|するたんす町》
《割書:舂米屋豊島屋市郎兵衛|か咄なり》
豊島屋市郎兵衛女房の弟ハ市谷たにまちなる前出しそ
ばやの次男なるか此もの新吉原町の商人屋の聟に成しか
不熟にて今年の夏離別しありしか此度の地震火災に
まぬかれしハ不幸中の幸とて語れり
本所深川の地しん強き事皆人知る所也己か近親に