翻刻
強くして潰れぬ家ハ少くと聞にそ初て虚生の夢
さめし心ちせられておとろかもぬよりて思ふに己れもし
始の屋敷本所に住んにハ半潰ハもとより怪我横死の程
も斗り難し又湯嶋下に住居せんにも家並半潰のさ
まならは先ハのかれぬ筋なるべし且大久保は此辺とハ大
ゆりひとしきゆりなれと取分ヶ我家の破損少きはいか
なる幸福そや抑またこれらハ天算の定数によれる
ならんかも
世の中のなにはの事のよしあしも
定るふしの数としられぬ
江戸大地震末代噺之種《割書:卯年十一月出|板絵入本二冊》寄談四條
安政二卯年十月二日夜四ッ時大地震ゆり出し土蔵かたふき
家潰るゝ事夥しく老若男女の死亡数知らす此時八方より
猛火炎々と燃上り炎天をこかし出火初め三十八口なりしか
近きわ焼つゝきて三十二口となり又二十七口となる追々焼
ひろかり翌日午之刻全く鎮火す猶是か為に命を絶
事夥し御府内市中の人民一瞬のうちに命を失
ふもの数万人実に前代未聞の怪談なり其後度々のゆり
返し有ゆへ又もや大地震ならんかと人々恐れ大道江
畳を鋪屏風戸障子或ハ火事用心の為にとて持出せし