翻刻
のゆりありしかと燭ハ消すうちたふへきことなかれと
女ともにかたく戒めつつゐに一たひ庭抔へはせ出
し事ハなかりしなり《割書:弊屋ハかやもてふけるひさく棟造りの|ことなれハたやすく倒るへきにあらすた》
《割書:とひ万一潰れたりとも絶命すべき程のおもりなきことを知りたれ|ハなましひうろたへ走出てあやまちせんハ益なしととゝめしなり》
その後伝へきくにこたひのなゐに人皆きゝおぢして十家
に七八ハ庭さき空地抔へ畳をしき並べかりかこひして
当分よな〳〵擧家それに仮寝せしとかやそはいかなる
こゝろにやもし住所潰れもしたるにハ止事を得たれハし
かあるへき筋なれとひたける怪我あやまちを恐れて
かろ〳〵しく左あらんハ武士のたゐとハおもわれさるな
り巳おもふに地震ハ天災なれハ此以後いかやうつよきゆ
りありて怪我もし即死もしたらんとて命数なれは
恥へき事にならすもし住所を明をき外に寝て萬一
豪盗おし入り疵なとうけたらんにハ大なる不覚なるへ
したとひ左なくして家材を奪ひ去れんにも元来しま
りの忽なれハ他へもれきこえんも恥へき筋也かゝる非常の
事は能道理の軽重おもひはかりて所置すへきものな
らんかし
次の日さりかたき所用ありて《割書:孫勘三郎の妻縁組願ましゆへ|引取御届等の事をはかる為也》
四谷右馬横町なる伴野新十郎か宅にゆくへしとて