翻刻
念仏坂を下り谷町に出しに町家悉く破損して土蔵の
無疵なるハ一も見へす夫よりくらやみ坂といふを登り
て寺町をゆくに堂舎皆崩れ中にハ全く潰れしもあり墓
所の石碑なとハおしなへて倒れたりかくて右馬横町に
至れハ左右の家皆大破にて伴野氏の宅も玄関はしめ住
居大かたかたふきしさまなれハ取次のものに口演の尺
書を渡して立さり餘りに夥しき破屋なれハことのあら
ましをミんとて四谷の大路に出て御堀端の方へゆくに
ぬりこめある大家ハ特に大破し又玉川上水の埋樋《割書:此大|通り》
《割書:多く石にて造り|しさまなり》所々崩れて水吹出し廣くうちくほミて
往来もなしかたき程也最わき御堀に近かりし方ハ地震
の筋強かりしにや潰家おひたゝしく夫より市谷ハ八幡へ
懸り佐内坂を登り尾州御守門の前より北御長屋わき
を過しに外つらハさまてのいたミと見へされと内の御長
屋を始め御殿迄も許多大破のことくおもはる此日はまた
板かこひもなく幕のミはられたれハ往還より皆見すきて
みへたり亦北御長屋もやゝかたふきしとミへてところ〳〵
長き杉丸太もてひかへの杭を打たり腰瓦ハいふにさらなり
窓下の壁も皆損し屋上の瓦も多おち散たり亦西手の方
なる北の角ハ石垣多分崩れて御長屋も一棟潰れ又見張