翻刻
上にのるとひとしく二階と下家は二ッに別れて左右二倒
れしか運やつよかりけん下家ハ物につかへて直にもかたふ
かすとかくするうち人はせ来りて引おろしゆへ疵さへ
受ず助りしと也此栄照院常に道了権現をしんかう
して神符を身に付ヶおりしに此騒きに夫をも失ひしか
後二階下の潰家共取片付るとて其守りを拾ひ出たれハ
全く災難の身代りに立給ひしか護ならんとて感涙し
て申き
六日けふハ化用山《割書:即淨念寺|の山号也》に詣て御石碑共の修理をなさ
しめんと朝またき宅を出て加賀屋鋪通り牛込南御徒
町を過き神楽坂の中腹を横きり夫より冷水番所と云
小径より竜慶橋を歴て諏訪町に入らんとせしかと右
も左も惣潰れとなりて往来ならぬハその次なる横道をよ
きり牛天神の石坂を登りてふりかへり見れハ此辺四五
町の内ハ家屋将基たをしとなりて梁柱なとくだけ折
しさま目驚かれぬ天神の社地ハ高岳なれとも大破ならす
裏門を出水府の御長屋にそひて右におれ亦左におれて
伝通院前通りの道を富坂の方へ行に水府御長屋ハ過半
大破し勿論左の方なる餌さし町抔ハ多く潰れたり御守殿
門のこなた小笠原信濃守屋敷は住居向も長屋も惣