翻刻
【右丁】
則始に此数十式を以す是は大抵(てい)今世に用ゆる所の
隅(すみ)の定石といふものかは次に四十番碁をおく
昔年(むかし)石井/恕信(じよしん)なる者/嘗(かつて)いへる事有り夫この四
十番碁の徳たる也 誠(まこと)に石なる物に玉を韫(つゝ)めは其
山必/輝(かゝやく)といへるか如き石立にして其/蘊奥(おんあう)愚(ぐ)か如き
ものゝ知へき処にあらす則/吾師(わかし)五代目名人本因
房道智の撰也と予思ふに此書に四つより以上の石立
なきは五つよりしては井目(せいもく)に至るといへとも此四つの
石立を知りて是を用ゆる時は大やう遠きか故(ゆへ)
なるへし然(しか)るに今また名家碁立の中はり五つの
石立と六つの石立とを撰入又作り物を後(しり)に出す
然れとも是を四十番棋の石立に擬(なそらふ)れは其遠き事
【左丁】
たゞに千里なるのみならんやいわゆる蛇(しや)を画(ゑかき)て足(あし)を添(そへ)る
といふものにしもあらんそかしされとも其/誚(そしり)を
辞(じ)せさるは則此書を編集するの意なりといふ
一 局機(きよくき)と題号(たいがう)したる二つの棋の石立一巻予是を
貯(たくはえ)る事久し何某の撰なることをしらすといへ
とも尤/傑然(けつせん)たるものなりされは二つの石立に委き
時は先の碁にも又三つ四つより以上の置碁(おきこ)にも其
石立を用るときはあたらすといふとも又遠からしと
思ふか故にこれを末巻(まつくわん)に附(ふ)す
壬子の年 玄々斎主人■