翻刻
の業(げう)を営(いとな)みたりしが今(いま)は自由(じゆう)に官許(くわんきょ)を得(え)て博(ひろ)く四(し)
来(らい)の浴客(よくかく)を宿泊(しゅくはく)せしむることを得(う)る之を温泉(おんせん)宿(やど)と
云(い)ふ其(その)数(すう)すべて三十(さんぢう)余戸(よこ)《割書:此中昔時の客屋にして今|に存するもの僅かに七八》
《割書:戸に過ぎ|ずといふ》皆(みな)筧(かけひ)を以(もつ)て温泉(おんせん)を浴室(よくしつ)に引(ひ)く即ち今井(いまゐ)半(はん)
太夫(だいふ)《割書:真誠社|と称す》渡辺(わたなべ)彦左衛門(ひこざゑもん)、富士屋(ふじや)喜右(きゑ)衛|門(もん)《割書:不尽閣|といふ》相模(さがみ)
屋(や)要作(えうさく)、露木(つゆき)準三(じゅんざふ)、鈴木(すゞき)良三(れうざふ)、巴屋(ともへや)吾助(ごすけ)、菊屋(きくや)五左衛門(ござゑもん)、山(やま)
田屋(たや)彦四郎(ひこしろう)、伊豆屋(いづや)徳兵衛(とくへゑ)、鱗屋(うろこや)平兵衛(へいへゑ)、万屋(よろすや)義助(ぎすけ)、阪口(さかくち)
屋(や)富八(とみはち)、等(とう)は大湯(おほゆ)を引(ひ)き玉屋(たまや)、角玉屋(かどたまや)、中玉屋(なかたまや)、小川(をかわ)、升屋(ますや)
丸戸屋(まるとや)、大松(おほまつ)、入江(いりえ)、伊勢屋(いせや)等(とう)は河原湯(かわらゆ)に浴(よく)する客(きやく)を宿(しゆく)
せしむ蓋(けだ)し河原湯(かはらゆ)は湯壷(ゆつぼ)の傍(かたはら)に一大(いちだい)浴室(よくしつ)を構(かまへ)衆客(しゆうかく)
是(これ)に混浴(こんよく)す《割書:海岸に此湯を引ける一茅店の浴戸|あり漁者樵夫ほしいまゝに乱浴す》小林(こばやし)
古屋(ふるや)は清左衛門湯(せいざゑもんゆ)を引(ひ)き且(か)つ各家(かくか)の庭中(ていちう)に湧(わ)く所(ところ)
の温泉(おんせん)を用(もち)ゐ藤井(ふじゐ)、沢口(さわくち)、山口屋(やまくちや)は小沢湯(こさはゆ)を用(もち)ゆ此他(このた)
江戸屋(えどや)、高砂屋(たかさごや)、福島屋(ふくしまや)等(とう)皆(みな)各々(をの〳〵)其(その)庭前(ていぜん)に湧(わ)く所(ところ)の温(おん)
泉(せん)に浴(よく)す又(また)浴室(よくしつ)を義立(ぎりう)して諸人(しょにん)をして随意(ずいゐ)に混浴(こんよく)
せしむるもの四ヶ|所(しょ)即(すなわ)ち温泉寺(おんせんじ)の隠寮(いんれう)に一ヶ|所(しょ)温(おん)
泉(せん)寺主(じしゆ)の施浴(せよく)に係(かゝ)る小沢町(こさわまち)、新宿(しんしゅく)、本町(ほんてう)各(おの〳〵)一ヶ|所(しょ)みな
其(その)町内(てうない)の協立(けうりつ)に係(かゝ)る其他(そのた)各戸(かくこ)随意(ずいゐ)に筧(かけひ)をわたし以
て自家(じか)の用(よう)に供(けう)するもの枚挙(まいきょ)するに遑(いとま)あらず
○浴室(よくしつ) 各戸(かくこ)二三|室(しつ)或(あるひ)ひは八九|室(しつ)々(しつ)毎(ごと)に概(おほむ)ね三|槽(そう)