翻刻
○温泉寺(おんせんじ) 清水山(せいすいさん)と称(せう)し新宿(しんしゆく)にあり臨済宗(りんざいしう)妙心寺(めうしんじ)
末(まつ)なり勅謚(ちょくし)神光(しんこう)寂照(じゃくせう)禅師(ぜんじ)授翁(じゆおう)宗弼(そうひつ)和尚(おせう)の開創(かいそう)に係(かゝ)
る和尚(おせう)は万里小路(までのこうぢ)中納言(ちうなごん)藤房卿(ふじふさけう)なり僧史(そうし)を按(あん)する
に卿(けう)は亜相(あせう)宣房(のぶふさ)の子(こ)嘗(かつ)て禅学(ぜんがく)を喜(よろこ)び退朝(たいてう)の暇(いとま)には
明極俊(めいごくしゆん)及(およ)び大燈国師(だいとうこくし)に参(さん)ず建武(けんむ)元年(ぐわんねん)潜(ひそか)に遁(のが)れて北(きた)
岩倉(いはくら)に至(いた)り出家(しゆつけ)す時(とき)に年(とし)三十八|延元中(ゑんげんちう)関山(くわんざん)国師(こくし)妙(めう)
心寺(しんじ)を開(ひら)くに当(あた)り往(ゆい)て法脈(ほうみやく)を伝(つた)へ遂(つい)に妙心(めうしん)第(だい)二|祖(そ)
となり天授(てんじゆ)六年三月廿八日|端坐(たんざ)して化(け)す時(とき)年(とし)八十
五|万治(まんぢ)二年|秋(あき)勅謚(ちょくし)して神光(しんこう)寂照(じやくせう)禅師(せんじ)と曰(い)ふと見(み)ゆ
《割書:和尚の未た出家せざる後醍醐天皇に仕へて力を中|興に尽されしことは已に世人周く知る所なれはこ》
《割書:こに贅|せず》和尚(おせう)の伝衣(でんい)絽金(ろきん)の七|条(でう)、一|肩(けん)あり寺(てら)の什宝(じうほう)
とす又(また)中興(ちうこう)雲居(うんご)国師(こくし)の九|条(でう)衣(え)及(およ)び念珠(ねんじゅ)を蔵(ぞう)す《割書:雲居|の伝》
《割書:は興禅寺の|下に略記す》庭前(にはさき)に古松(ふるまつ)一|株(ちう)あり幽翠(ゆうすい)人(ひと)を襲(おそ)ふ伝(つた)へ
て開祖(かいそ)の手植(てうえ)となす門前(もんぜん)に古井(ふるゐど)あり三|点水(てんすゐ)と名(なつ)く
蓋(けた)し唐(とう)の悟達(ごたつ)が霊水(れいすゐ)を三|点(てん)して奇疾(きしつ)を治(ぢ)せしとい
ふ故事(こじ)に依(よ)り雲居(うんご)の命(めい)ずる所(ところ)にして熱海(あたみ)第一(だいいち)の甘(かん)
泉(せん)なりといふ支坊(しぼう)慈照庵(じせうあん)上宿(かみしゆく)にあり俗(ぞく)に湯河原堂(ゆがはらだう)
と称(せう)し本尊(ほんぞん)地蔵(ぢぞう)大士(だいし)を安(あん)ず相伝(あいつた)ふ治承(ぢぜう)年間(ねんかん)右大将(うだいせう)
頼朝(よりとも)の開創(かいそう)に係(かゝ)ると延宝(ゑんほう)二|年(ねん)江戸(えど)の人(ひと)久保田(くぼた)某(なにがし)ま
た堂宇(だうう)を興(おこ)す而(しか)して今(いま)の堂(だう)は安政中(あんせいちう)温泉(おんせん)寺主(じしゆ)雪源(せつげん)