翻刻
【右丁】
ぜんといひ。又 薬(くすり)をもて胎(たい)をちゞめなば。かへりて力(ちから)とぼし
くなり。その子(こ)も亦(また)気(き)よはかるべし。無益(むやく)に薬(くすり)を用(もち)ゆる
ことなかれ。されど時行病(はやりやまひ)にそみなば。かならず療治(りやうぢ)の
おくれなきやうに。急(きふ)に薬(くすり)を用(もち)ゆべし。薬(くすり)は病(やまひ)をいやすも
のなれば。この病(やまひ)にはこの薬(くすり)。かの病(やまひ)にはかの薬(くすり)を用(もち)ゆる
ものと心得べし。もし胎(たい)を害(かい)するとて。その薬(くすり)を服(ふく)せず
して。病(やまひ)久(ひさ)しく愈(いえ)ざれば。たとへ死(し)はまぬかるとも。胎気(たいき)
つかれて。終(つゐ)には堕胎(だたい)する也。近世(きんせい)民間(みんかん)の説(せつ)に。妊婦(にんふ)薬(くすり)
をのめば。産後(さんご)乳(ち)出(いで)ずといふ。これたえてなき事也。
【左丁】
必(かならず)おそれあやぶむ事なく。いそぎ医師(ゐし)をこふて。その指(さし)
図(づ)にしたがふべし。
○悪阻(つはりやみ)は。はらみてじきに病(やむ)もあれども。多(おほ)くは二(に)ヶ(か)月(つき)
三(さん)ヶ(か)月(つき)の比(ころ)よりおこる。これ経(けい)のめぐりとぢ。胎(たい)の座(ざ)どかし
て。腹(はら)のもやうかはるゆへなり。先(まづ)食(しよく)の気(き)をにくみ。平生(へいぜい)この
まざるものをこのみ。すべて菓(くだもの)のたぐひ。酸(す)きものをこのみ。
嘔気(ゑづき)ありて胸(むね)こゝろあしく。頭(かしら)ふらつきて。たゞ寝(いね)た
くおもひ。総(そう)【惣】身(み)だゆくして。手足(てあし)をうごかす事をきらひ。
はなはだしきは熱(ねつ)さして。食(しよく)いよ〳〵すゝまず。其(その)かたち
現代語訳
【右丁】
しようと言い、また薬をもって胎児を小さくしようとすれば、かえって力が弱く
なり、その子もまた気が弱くなるであろう。無益に薬を用いる
ことはしてはならない。しかし流行病に感染したならば、必ず治療の
遅れがないように、急いで薬を用いるべきである。薬は病気を治すもの
であるから、この病気にはこの薬、あの病気にはあの薬を用いる
ものと心得るべきである。もし胎児を害するといって、その薬を服用せず
して、病気が長く治らなければ、たとえ死は免れても、胎気が
疲れて、ついには流産してしまう。近世民間の説では、妊婦が薬を
飲めば、産後に母乳が出ないという。これは全くない事である。
【左丁】
必ず恐れ心配することなく、急いで医師を求めて、その指
図に従うべきである。
○つわりは、妊娠してすぐに発症することもあるが、多くは二ヶ月
三ヶ月の頃から起こる。これは月経の巡りが止まり、胎児の座が
定まって、腹の様子が変わるためである。まず食べ物の匂いを嫌い、普段
好まないものを好み、すべて果物の類や酸っぱいものを好む。
吐き気があって胸の調子が悪く、頭がふらついて、ただ寝て
いたいと思い、全身がだるくて、手足を動かすことを嫌い、
ひどい場合は熱が出て、食事がますます進まず、その様子は
英語訳
【Right page】
and saying so, or if one tries to make the fetus smaller with medicine, the strength will conversely become weak
and that child will also become weak in qi. One must not use
medicine uselessly. However, if infected with an epidemic disease, one must urgently use medicine
to ensure there is no delay in treatment. Since medicine is meant to cure illness,
one should understand that this medicine is for this disease, and that medicine is for that disease.
If one does not take medicine fearing it will harm the fetus
and the illness does not heal for a long time, even if death is avoided, the fetal qi will become
exhausted and eventually result in miscarriage. In recent popular belief, it is said that if pregnant women take
medicine, breast milk will not come after birth. This is completely unfounded.
【Left page】
One must not fear or worry, but quickly seek a physician and
follow their instructions.
○Morning sickness may occur immediately after pregnancy, but most commonly begins around the second
or third month. This is because menstruation stops, the fetus settles into position,
and the condition of the abdomen changes. First, one dislikes the smell of food, desires
things usually disliked, and generally prefers fruits and sour things.
There is nausea and chest discomfort, dizziness, and one only wants to lie down
and sleep, with the whole body feeling sluggish and disliking to move hands and feet.
In severe cases, there is fever, food becomes even more unappetizing, and the appearance is