翻刻
しと夫ゟ酒杯あたへ色〳〵の耳言恵教を以て其心を
慰めけれは漸に解心して従ひ行へしといふに至り大に
力を得て和洋を窺ふの間日数十一日にして漸風波も
穏なれハ同月廿五日此所を出て九月三日トツシヨカウに至り
付ぬるに是より奥地ハ異俗の夷域に入事既に深く
且日を追て寒威増劇に趣き貯糧も又多からされ
は従夷しきりに帰りさらんと云て強ゆへからさる勢
なれは已事を得すして終に船を返し九月十四日リ
ヨナイに帰り着ぬ去にても此志を空して徒に帰り
さらん事の口惜けれハ如何にもして帰上の凍合する
を待水上を経歴して奥地に至るへしと思ひ十月十四日
まて夷家に寓宿しけるに日を追て積雪山をなすと
いへとも海上更に凍合セされハ如何に思ふ共奥地
に至るへき術なく旦日々食糧も残少々なり終に
雑具を約して船と共に夷家に託し置六夷を牽
ひて積雪をおかし陸行して十一月廿六日トンナイに帰
り至り夷家に寓宿して其年を踰へ巳年正月廿
八日まて此所に滞留し食料の貯なと調へて廿九
日此所を出又奥地に向しに二月二日ウシヨロに至る是ゟ
奥地ハ悉〳〵満州附属の夷域なれハ初島の夷恐怖