翻刻
子とは夢にも知ず。■しほらしき小冠者(こくわしや)かな是
へ参て酌(しやく)をいたせと。膝元へ招(まね)きよせ。兄弟が容皃(やうほう)
の麗(うる)はしきに心乱れ。数献(すこん)の酒を傾(かたむ)けしが。
酔興のあまり。着せし所の衣を脱。兄弟に分ち
与へ。猶も足(たら)ずや思ひけん。佩(はひ)たる所の釼を鶴に
あたふ。鶴今は能図(よきつ)なりと。弟に目くばせし。其釼
を抜手 見せず。つと寄て阿公に組付。われ〳〵
を誰とか思ふ。汝が讒言に依て自殺なしたる。
毛国鼎が二人の子なり。恨おもひ知れと。柄
も通れ。拳(こふし)も通れと刺通(さしとう)され。あつといふて
立上るを。返す刀に首打落せば。酔潰(ゑひつぶ)れたる
従者ども。此躰を見て肝を消【潰?】し。上を下へと
狼狽す。二人の童子は透問もなく。四方八面を切
て廻り。悉く切殺し。本望を遂たるを一齣(ひとくさり)とす。
又鐘魔といふ狂言あり。是は謡曲(うたひ)のどう道成寺に
似たり。中城(なかくすく)の姑場村(こしやうそん)といふ所の農家(ひやくせう)に陶(たう)姓(??)
なる者あり。一子を松寿と名付く。齢(よわひ)まさに
十五歳。誠に端麗(たんれい)の美少年なり此国の都。
首里(すり)に師ありて。常に往通ひて業(きやう)を受けり。
一日(あるひ)浦添(うらそへ)の山径(やまみち)に懸りける時。日暮に及ひて路