琉球・沖縄の世界を翻刻する

コレクション: 琉球大学所蔵 琉球・沖縄関係資料 vol. 1

琉球談 - 翻刻

琉球談 - ページ 38

ページ: 38

翻刻

抱き付ば.松寿驚き.衣を振(ふる)ふて起上る.娘今は 恨のあまり.難面(つれなき)人を生(いか)し置じ.同じ冥(めい) 途(ど)へともなはんと.猟具(りやうぐ)を取て飛懸る.松寿は 魂(たましい)九天(きうてん)に飛.夢路(ゆめじ)をたどる心地して.足を■ に逃出すを.何国までもと追来る.其早き事 飛鳥の如し.松寿やう〳〵逃延て.此山の 曲(くま)にある。万寿寺といふ寺に駈入.しか〳〵の 由を相語れは.住持 普徳’(ふとく)といふ僧は.行徳(きやうとく) いみしく.才覚ある僧なりければ.すなはち 松寿を鐘楼(しゆろう)へともなひ.大鐘(おほかね)の内に伏(ふさ)しめ. 三人の徒弟(でし)をして。其 傍(かた)へ辺を看守(まもり)しむ。とばかり 有て彼娘。姿あらはにしたひ来り。三人の僧に問。 何れも知ざる躰にもてなし。戯(たはむれ)嬲(なぶ)りて帰らしめ んとす。娘は松寿を求得ず。狂気の如く泣叫(なきさけ)び。 猶も行衛を尋んと。門外へ駈出れは。僧共今は心 易しと。件(くだん)の鐘を退(のけ)んとす。其物音。山彦(やまびこ)に 響(ひゞ)きければ。女早くも跑戻(かけもど)り。髪振乱し形(きやう) 相(さう)変り。恋しき人は此鐘の内にこそ有(あつ)たんなれ と。鐘の内へぞ入にける。住僧驚き。諸僧と倶に。 鐘を繞(めぐ)りてこれを祈(いの)る。行法(きやうほう)の験(しるし)にや。かねは