翻刻!江戸の医療と養生

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救急撮要 - 翻刻

救急撮要 - ページ 58

ページ: 58

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にて。たとひ衣服(きるもの)に火(ひ)がもえつきたり とも。はふてその所を出るやうにして。 のがれいづれば。衣服(きるもの)の火は消(け)しも。ぬ ぎすてもして。命(いのち)は助るなり。このこと をよくこゝろえおくべし▲蚰蜒(げぢ〳〵)を。煙(きせ) 管(る)の大頭(ひざら)にて打ころし。この煙管(きせる) にて煙草(たばこ)をのみて。即死(そくし)したるもの あり。これは蚰蜒(げぢ〳〵)の毒(どく)と。煙草(たばこ)の脂(やに)と 相合て。猛厲毒(はぎしきどく)となるものとしら れたり。もしかゝることあらば。早く油 をのむか。吐剤(はきぐすり)を用るかすれば。決(けつ)し て死ぬるまでにはいたらぬもの也。これ らも記得(こゝろえ)おくべきこと也▲毛蝨(けじらみ)は。頭髪(かみのけ) にも生ずるものなり。それにも軽粉(けいふん)を 髪(かみ)の根(ね)もとへつけおけば。自然(しぜん)と死ぬる ものなり。また苦参(くじん)を煎じて髪(かみ)を あらふもよし。されど。頭髪(かみのけ)にあれ。陰(いん)毛 にあれ。蝨(しらみ)のわくことあるは。おほくは。【注】 黴毒(かさのどく)に因(よる)ものなれば。毒を消す。治(ぢ) 術(じゆつ)を施(ほどこす)べきもの也▲下疳瘡(げかんさう)とて。陰茎(いんきやう) へ豆の如くなる瘡(てきもの)発(でき)たるが。やがて弥(はび) 蔓(こり)て。陰頭(いんとう)漸(だん〳〵)に腐蝕(くされうみ)。つひには缺(かけ)おちて 不具(ふぐ)の人となるものあり。旅(りよ)中などに て。身の慎(つゝしみ)あしく黴毒(ばいどく)ある妓(ぎ)など より毒をつたへ。妄(みだり)なる膏薬(かうやく)を弁(わきまへ)も なく貼(つけ)て。腐蝕(くされこま)する起本(もと)となること多 ければ。もし羇旅(たびさき)にて。この瘡(かさ)発(でき)ぬる時は。 よく膿(うみ)熟(ついめ)るを見さだめて。鍼(はり)をさして 膿(うみ)を出したるあとへ。蒲黄末(ほわうのこ)をふりか けおくべし。膏薬(かうやく)をつくれば。却(かへつ)て腐蝕(くされ) をますことあり。いづれにも内治(ないぢ)の宜(よろし)きを 得(う)るにあらざれば。よく毒を排除(はらひのぞく)ことは 為(なし)がたけれど。此(こゝ)には行旅(たび)などにて。さしあた る悩(なやみ)を免(まぬが)れしむるまでにいふ所にして。 正(たゞ)しき治法(ぢはふ)にはあらずと思ふべし。また。 蒲黄(ほわう)に軽粉(けいふん)を少し交(まぜ)て傅(つく)る【塗布する】もよし ▲毛(け)ぎれとて。陰茎(いんきやう)にすりきずのごとく なりて。爛(たゞれ)たる所できる。これもまた黴(ばい) 【注 カスレ部分は国会図書館所蔵本を参照 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536777/56】

現代語訳

にて、たとえ衣服に火が燃え移ったとしても、這ってその場所を出るようにして逃れ出れば、衣服の火は消すも脱ぎ捨てもして、命は助かるのである。このことをよく心得ておくべきである。 ▲ゲジゲジを煙管の火皿で打ち殺し、この煙管で煙草を吸って即死した者がある。これはゲジゲジの毒と煙草のヤニが相合わさって、激しい毒となるものと知られている。もしこのようなことがあれば、早く油を飲むか、吐き薬を用いるかすれば、決して死ぬまでには至らないものである。これらも心得ておくべきことである。 ▲毛ジラミは頭髪にも生じるものである。それにも軽粉を髪の根元につけておけば、自然と死ぬものである。また苦参を煎じて髪を洗うのもよい。しかし、頭髪であれ陰毛であれ、シラミが湧くことがあるのは、多くは梅毒によるものであるから、毒を消す治療法を施すべきものである。 ▲下疳瘡といって、陰茎に豆のような瘡ができたものが、やがて広がって陰頭が次第に腐食し、ついには欠け落ちて不具の人となる者がある。旅中などで身の慎みが悪く、梅毒のある妓女などから毒を移され、妄りな膏薬を分別もなく貼って、腐食する原因となることが多いから、もし旅先でこの瘡ができた時は、よく膿が熟するのを見定めて、針を刺して膿を出した跡に、蒲黄末を振りかけておくべきである。膏薬をつければ、かえって腐食を増すことがある。いずれにしても内治の適切なものを得なければ、よく毒を排除することは困難であるが、ここでは旅行などで差し当たる悩みを免れさせるまでのことを述べるのであって、正しい治法ではないと思うべきである。また、蒲黄に軽粉を少し混ぜて塗るのもよい。 ▲毛切れといって、陰茎に擦り傷のようになって、爛れた所ができる。これもまた梅毒

英語訳

In such cases, even if clothing catches fire, by crawling to exit that place and escaping, whether the fire on clothing is extinguished or the clothes are stripped off, life can be saved. This should be well understood. ▲There was someone who killed a house centipede with the bowl of a tobacco pipe and immediately died after smoking tobacco with that same pipe. This is known to be because the poison of the house centipede combined with the tar of tobacco to become a violent poison. If such a thing happens, drinking oil quickly or using an emetic will certainly prevent death. These things should also be remembered. ▲Pubic lice also grow in head hair. For this too, if calomel is applied to the roots of the hair, they will naturally die. Also, decocting and washing the hair with sophora root is good. However, whether on head hair or pubic hair, when lice appear, it is mostly due to syphilis, so treatments to eliminate the poison should be applied. ▲There is something called chancre, where sore like a bean appears on the penis, which then spreads and the glans gradually becomes ulcerated, eventually breaking off and leaving the person disabled. During travel, when one's conduct is poor and poison is transmitted from courtesans with syphilis, applying inappropriate ointments without judgment often becomes the cause of ulceration. If this sore appears while traveling, one should carefully observe the pus ripening, pierce it with a needle to drain the pus, then sprinkle cattail pollen powder on the area. Applying ointment may actually increase the ulceration. In any case, without proper internal treatment, it is difficult to properly eliminate the poison, but here we speak only of relieving immediate suffering during travel, and this should not be considered proper medical treatment. Also, mixing a little calomel with cattail pollen for application is good. ▲There is something called "hair cut," where the penis develops something like abrasions that become ulcerated. This is also syphilis