翻刻
筑前(ちくぜん)の博多(はかた)にて。異国(いこく)人よ
りつたへたるを以て。呼(よん)で唐瘡(からがさ)と
いふがごとく。これらの病は。おの〳〵
一 種(しゆ)のどくにて。人より人につた
へてわづらふものなり。しかるを
憶測(あてちがひ)なる病因(びやういん)をとなへて。的当(てきたう)
の治 術(じゆつ)をするものゝ少きゆゑに。
治しかぬるなり。ゆゑに今この
病毒の人より人につたへて弥蔓(はびこり)
ゆくことは。なほ草木の種子(たね)を
藝(うゑ)。または分根(ねわけ)して繁茂(しげり)ゆくも
のと一 般(ぱん)なることを領解(がてん)して。
その伝染(でんせん)を御(ふせ)ぎ。転つりたる初(はじめ)に
はやくこれを排除(はらひのぞ)くことを思ふ
べし。羇旅(たび)の客店(はたごや)などにて。枕席(ねどころ)
などよりもうつるものなれば。もし
羇楼(たびさき)などにて。指(ゆび)の間(また)などに
二ツ三ツも発(でき)たらば。はやく鍼(はり)か刀(こが)
子(たな)などにて刺破(つきやぶり)て。血をしぼり
出てのちの。硫黄(いわう)の細末をつくべ
し。この時の硫黄(いわう)は発燭(つけぎ)に用たる
をけづりとりてもよし。薬舖(きぐすりや)あ
るところならば。鵜(う)の目。鷹(たか)の目と
呼(よぶ)ところのものゝ細末を買(かふ)て貼(つく)るが
よし。礦硫黄(かねほりいわう)の。世に金硫黄とよぶ
もの一匁に。片脳(へんなう)三分。磠砂(どうしや)一分をくは
へて。細末したるものを貼(つく)れば。もつ
とも効(こう)あり。その毒すでに蔓延(ひろがり)て。
肘臂(かひなひぢ)におよびたるも。一ツ〳〵に血(ち)を
しぼり出して。このくすりをつく
れば。よくそのどくを消除(のぞく)こと。しば
〳〵こゝろみて験(しるし)をえたるところ
なり。また蝋(らう)のけぶりよくこの毒を
消(さる)こといたつて妙(めう)なるものなり。いか
ほど周身(しうしん)にはびこりたるものにて
も。日〳〵蝋(らう)を煮(に)て。その煙(けぶり)をもつて
惣身(そうみ)をふすぶれば。いつかいえて。
内 攻(こう)することもなく。治するもの
現代語訳
筑前の博多で、異国人より伝えられたものを呼んで「唐瘡」というのと同じである。これらの病気は、それぞれ一種の毒で、人から人に伝わって患うものである。しかるに、推測による間違った病因を唱えて、的確な治療法を行う者が少ないゆえに、治らないのである。ゆえに今、この病毒が人から人に伝わって蔓延していくことは、なお草木の種子を植え、または分根して繁茂していくものと同じであることを理解して、その伝染を防ぎ、感染した初期に早くこれを排除することを考えるべきである。
旅の宿屋などで、寝床などからも感染するものなので、もし旅先などで、指の間などに二つ三つでも発症したならば、早く鍼や小刀などで刺し破って、血を絞り出した後に、硫黄の細末を付けるべきである。この時の硫黄は、付け木に用いたものを削り取ってもよい。薬屋があるところならば、「鵜の目・鷹の目」と呼ぶところのものの細末を買って付けるのがよい。
鉱物の硫黄で、世に金硫黄と呼ぶもの一匁に、片脳三分、磠砂一分を加えて、細末したものを付ければ、最も効果がある。その毒がすでに蔓延して、上腕や肘に及んだものも、一つ一つに血を絞り出して、この薬を付ければ、よくその毒を消し去ることができる。しばしば試してみて効験を得たところである。
また蝋の煙が、よくこの毒を消し去ることは、極めて不思議なものである。いかほど全身に蔓延したものでも、日々蝋を燃やして、その煙で全身を燻せば、いつしか治って、内攻することもなく、治癒するものである。
英語訳
This is similar to how what was transmitted by foreigners in Hakata, Chikuzen Province was called "Tang sores" (Chinese sores). These diseases are each a type of poison that spreads from person to person and causes illness. However, because few people advocate correct etiology instead of speculative misunderstandings and perform appropriate treatments, they remain incurable. Therefore, one should now understand that this disease poison spreading from person to person is the same as planting seeds of plants and trees or propagating through root division, and should consider preventing such transmission and quickly eliminating it in the early stages of infection.
Since it can be transmitted through bedding and such places in travelers' inns, if two or three lesions appear between the fingers while traveling, one should quickly pierce them with needles or small knives, squeeze out the blood, and then apply finely powdered sulfur. The sulfur used at this time may be scraped from what is used for kindling. Where pharmacies are available, it is good to buy and apply fine powder of what is called "cormorant eyes" and "hawk eyes."
If one adds three parts camphor and one part alum to one monme of mineral sulfur (what the world calls gold sulfur) and applies the fine powder, it is most effective. Even when the poison has already spread to the upper arms and elbows, if blood is squeezed out from each lesion and this medicine is applied, it can effectively eliminate the poison. This is based on frequent trials that have proven effective.
Also, the smoke of wax is remarkably effective at eliminating this poison. No matter how extensively it has spread throughout the body, if one burns wax daily and fumigates the entire body with its smoke, it will eventually heal without internal invasion and be cured.