翻刻!九州大学の書物たち

コレクション: 漂流記コレクション

日本漂流譚 - 翻刻

日本漂流譚 - ページ 131

ページ: 131

翻刻

【右丁】  右(みぎ)の通(とほ)りにて二十ケ年 余(よ)助命(じよめい)仕(つかまつ)り罷(まかり)り在(あり)候。然(しか)る処(ところ)今年(ことし)の時節(じせつ) いつの頃(ころ)とも相知(あひし)れ不_レ申候ひしが、私共(わたくしども)三人の内(うち)、甚(じん)八、平(へい)三郎は、兼(かね)てよ り蒔付(まきつけ)置(おき)候 稲草(いなくさ)を見廻(みまは)りに罷越(まかりこし)候て、仁三郎一人 岩穴(いはあな)の内(うち)に居(をり)候を、何(なに) 者(もの)とも不_レ存、三人 来(きた)り覗(のぞ)き申候て、殊(こと)の外(ほか)ぎようてんいたし、《振り仮名:怖|お□【そ】》れおのゝ き候 体(てい)にて、其儘(そのまヽ)磯辺(いそべ)の方(かた)へかけ下(くだ)り申候ゆへ、私(わたくし)義(ぎ)も直(たヾち)に穴(あな)をかけ出(い) で、右(みぎ)のものを追駈(おひかけ)なから詞(ことば)を掛(か)け、われも日本(にほん)のものなり、遠州(ゑんしう)荒井(あらゐ)の ものどもなれば、気遣(きづかひ)賜(たま)ふ事(こと)なかれ、可_レ申 事(こと)も御座(ござ)候へば、《振り仮名:止|とヾ【「ま」脱ヵ】》り玉(たま)へ。と、 大音(だいおん)に申ければ、右の者 安堵(あんど)仕候や、跡(あと)へ帰(かへ)り候て側(そば)近(ぢか)く参(まゐ)り候ゆへ、委(ゐ) 細(さい)の事(こと)どもくわしく物語(ものがた)り、外(ほか)に二人の同行(どうかう)も有_レ之候へば、まづ〳〵み な〳〵連(つれ)て参(まゐ)り候やうにと則(すなは)ち同道(どうだう)いたし候 処(ところ)、みな〳〵大(おほ)きに《振り仮名:驚|な【おヵ】とろ》き、 委細(ゐさい)此島(このしま)の様子(やうす)を聞(き)き申ゆへ、廿ケ年(ねん)余(よ)已前(いぜん)難風(なんぷう)にて右(みぎ)島(しま)へ漂着(へうちやく)の趣(おもむき) いさい物語(ものがた)【「り」脱ヵ】仕候。いかにも驚(おどろ)き玉(たま)ふも尤(もツと)もにて、二十ケ年(ねん)余(よ)乱(らん)ひん長(ちやう) 【左丁】 【右下】 広業

現代語訳

【右丁】  右の通りで二十ヶ年余り命を保って滞在しておりました。しかるに今年のいつ頃とも分からない時節でしたが、私ども三人のうち、甚八、平三郎は、かねてより蒔いて育てていた稲草を見回りに行っておりまして、仁三郎一人が岩穴の中にいるところを、何者とも分からない三人がやって来て覗き込みました。そのため殊の外驚き、恐れおののいている様子で、そのまま磯辺の方へ駆け下りていきましたので、私もすぐに穴から駆け出して、その者たちを追いかけながら声をかけました。「我々も日本の者である、遠州荒井の者どもであるから、心配なさることはない、申し上げたいこともあるので、お止まりください」と、大声で申しましたところ、その者たちは安心したのか、戻って来て側近くに参りましたので、詳細なことをくわしく物語り、他に二人の同行者もいることを伝え、まずはみなさんを連れて参りましょうと、すぐに同道いたしました。ところが、みなさん大いに驚かれ、詳しくこの島の様子をお聞きになるので、二十ヶ年余り以前に暴風でこの島へ漂着した次第を詳しく物語りいたしました。いかにも驚かれるのももっともなことで、二十ヶ年余りの乱世の長い 【左丁】 【右下】 広業

英語訳

【Right page】  In this manner we preserved our lives and remained there for over twenty years. However, at some point this year—though I cannot say when exactly—while Jinpachi and Heisaburo of our three were out checking on the rice grass we had been cultivating, Nisaburo was alone in the rock cave when three unknown men came and peered inside. They were extremely startled, appeared frightened and trembling, and immediately ran down toward the rocky shore. I too immediately rushed out of the cave and chased after them, calling out: "We too are Japanese! We are from Arai in Enshu Province, so please do not worry. We have things to tell you, so please stop!" When I shouted this loudly, the men seemed relieved and returned to approach us closely. I told them the details of our situation in full, and mentioned that we had two other companions, suggesting that we should bring everyone together. When I accompanied them, everyone was greatly surprised and asked detailed questions about the conditions on this island, so I told them the full story of how we had drifted to this island over twenty years ago due to a storm. Their amazement was quite understandable, given the long period of over twenty years of turmoil and 【Left page】 【Bottom right】 Hirogo [signature/name]