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コレクション: 漂流記コレクション

日本漂流譚 - 翻刻

日本漂流譚 - ページ 8

ページ: 8

翻刻

【右丁】 【版心の中央部:(二)】 心地(こヽち)して、小船(こぶね)をおろし、水(みづ)を求(もと)めんとて上陸(しやうりく)し、土地(とち)の様子(やうす)を見(み)るに、住(す) む人(ひと)とては更(さら)になく、目(め)に遮(さへ)ぎるものは、只(たヽ)木立(こだち)茂(しげ)れる山(やま)計(ばか)りなり。此(こ) 所(こ)に十日計(とをかばか)り逗留(とうりう)し、山(やま)にて木(き)を伐(き)り、船(ふね)の損(そこ)ねし道具等(だうぐとう)を修(おさ)め、いざや 日本(にほん)に帰(かへ)らんと、再(ふたヽ)び船(ふね)を出(いた)したるに、又もや風(かぜ)荒(あ)れ浪(なみ)高(たか)くて、右(みぎ)の所(ところ)よ り凡(およ)そ五十 里計(りばか)りも西(にし)の方(かた)、陸地(りくち)に近(ちか)く吹(ふ)き流(なが)されけり。然(しか)るに、陸(りく)を 離(はな)るゝ一里 計(ばか)りの沖(おき)にかゝりたる処(ところ)に、三尋(みひろ)ほどの小船(こぶね)に一人(ひとり)づゝ乗(の) りしが、六十 艘(さう)ばかり、此方(こなた)に漕(こ)ぎ寄(よ)せ来(きた)るを見(み)とめたれば、此所(こヽ)の地名(ちめい) を何(なん)といふにや、尋(たづ)ねても見(み)んと、大声(おほごゑ)あげて呼(よ)びたれども、互(たがひ)に言葉(ことば)の 通(つう)ぜざるため、返辞(へんじ)もなく、近(ちか)くも寄(よ)らず、皆々(みな〳〵)後(あと)へと漕(こ)ぎ戻(もど)れり。しば らくありて、右(みぎ)の船(ふね)の内 唯(たヾ)三 艘(さう)、又々 此方(こなた)へ来(く)る様子(やうす)なれば、皆々(みな〳〵)話(はな)しあ ひ、兎(と)も角(かく)も彼等(かれら)を我(わ)が船(ふね)に乗(の)らせて見(み)んと、待(ま)つ間(ま)程(ほど)なく近(ちか)づきぬ。 さて、この船(ふね)に乗(の)れと、仕形(しかた)にて招(まね)ぎたるに、三人とも此方(こなた)の船(ふね)に乗(の)り移(うつ) 【左丁】 【版心の中央部:(三)】 れり。よりて、酒食(しゆしよく)など与(あた)へたれども、互(たがひ)に顔(かほ)見合(みあは)せて、飲(の)み食(く)ふべき気(け) 色(しき)見(み)えざるゆゑ、此(これ)は定(さだ)めて疑心(ぎしん)あるならんと推(すゐ)し、此方(こなた)の者(もの)、まづたべ て見(み)せたるに、それを見(み)て彼等(かれら)も始(はじ)めて飲食(いんしよく)し、暫(しば)らくありて小船(こぶね)に帰(かへ) り、人参(にんじん)三 把(ば)持(もち)来(きた)り、此方(こなた)の船(ふね)なる料理鍋(れうりなべ)を見(み)て、之(これ)と交易(かうえき)せんことを乞(こ)ふ 有様(ありさま)見(み)ゆるにぞ、やがて之(これ)をゆるし、且(か)つ其 品(しな)多(おほ)く此地(このち)に産(さん)するやと、仕(し) 形(かた)にて問(と)へば、彼等(かれら)は顧(かへり)みて山(やま)を指(ゆびさ)し、彼処(かなた)に多(おほ)くある旨(むね)をば、又 手(て)まね にて答(こた)へけり。さて思(おも)ひけるは、我等(われら)が松前(まつまへ)に至(いた)りて商(しやう)を営(いとな)むも、つま る所は利徳(りとく)を得(え)んが為(ため)なり。利徳(りとく)さへあらば、固(もと)より地(ち)の何処(いづく)なるを 問(と)ふべきにあらずと。よりて、彼(か)の者共(ものども)をたらし、人参(にんじん)のある所(ところ)を教(をし)へ させ、此方(こなた)の船三 艘(さう)に満載(まんさい)して帰国(きこく)せば、亦 快(こヽろよ)きことならずやと。一人(ひとり)が 言(い)へば心(こヽろ)は同(おな)じ乗組(のりくみ)一同(いちどう)、何(いづ)れも然(しか)るべしとの返答(へんたふ)なり。さて又 彼(か)の 三人に向(むか)ひ、米(こめ)を与(あた)ふべければ、人参(にんじん)のある地(ち)を見(み)せよと言(い)へば、彼等(かれら)は

現代語訳

【右丁】 心地がして、小船を下ろし、水を求めようと上陸し、土地の様子を見ると、住む人は全くおらず、目を遮るものは、ただ木立の茂った山ばかりであった。この所に十日ほど滞在し、山で木を伐り、船の損傷した道具等を修理し、さあ日本に帰ろうと、再び船を出したところ、またもや風が荒れ波が高くて、先ほどの所からおよそ五十里ほども西の方、陸地に近く吹き流された。しかし、陸を離れること一里ほどの沖にかかった所で、三尋ほどの小船に一人ずつ乗った者が、六十艘ばかり、こちらに漕ぎ寄せて来るのを見つけたので、この所の地名を何というのか、尋ねてみようと、大声を上げて呼んだけれども、お互いに言葉が通じないため、返事もなく、近くも寄らず、皆後ろへと漕ぎ戻った。しばらくして、先ほどの船のうちただ三艘が、またこちらへ来る様子なので、皆で話し合い、とにかく彼らを我が船に乗せてみようと、待つ間もなく近づいた。そして、この船に乗れと、身振りで招いたところ、三人とも当方の船に乗り移った。 【左丁】 そこで、酒や食べ物などを与えたけれども、お互いに顔を見合わせて、飲み食いする気色が見えないので、これはきっと疑心があるのだろうと推察し、こちらの者が、まず食べて見せたところ、それを見て彼らも初めて飲食し、しばらくして小船に帰り、人参三把を持って来て、こちらの船にある料理鍋を見て、これと交換したいことを求める様子が見えたので、すぐにこれを許し、かつその品がこの地に多く産するかと、身振りで問うと、彼らは振り返って山を指差し、あちらに多くある旨を、また手振りで答えた。そして思ったのは、我等が松前に至って商いを営むのも、つまるところは利益を得るためである。利益さえあれば、もとより地がどこであるかを問う必要はないと。そこで、彼の者どもを手なずけ、人参のある所を教えさせ、こちらの船三艘に満載して帰国すれば、また快いことではないかと。一人が言えば心は同じ、乗組み一同、いずれももっともだとの返答であった。そしてまた彼の三人に向かい、米を与えるから、人参のある地を見せよと言うと、彼らは

英語訳

【Right Page】 came to their senses, lowered a small boat, and landed seeking water. When they observed the condition of the land, there were no inhabitants at all, and the only things obstructing their view were mountains thick with trees. They stayed at this place for about ten days, cutting wood in the mountains and repairing damaged ship equipment. When they set out again, intending to return to Japan, once more the wind grew fierce and the waves high, and they were blown about fifty ri west from their previous location, close to land. However, when they were about one ri offshore, they spotted about sixty small boats, each about three fathoms long with one person aboard, rowing toward them. Wanting to inquire about the name of this place, they called out loudly, but since they could not understand each other's language, there was no reply. The boats did not approach closely and all rowed back. After a while, only three of those boats appeared to be coming toward them again. Everyone discussed the situation and decided that in any case, they would try to get those people aboard their ship. Before long, they approached. When they gestured for them to board their ship, all three transferred to their vessel. 【Left Page】 They offered them sake and food, but since the visitors looked at each other and showed no inclination to eat or drink, the Japanese surmised that they must be suspicious. When their own people first ate to demonstrate, seeing this, the others finally began to eat and drink. After a while, they returned to their small boat and brought back three bundles of ginseng. Seeing the cooking pot on the Japanese ship, they appeared to request an exchange. This was immediately granted, and when asked through gestures whether this product was abundant in this region, they turned and pointed to the mountains, indicating through hand signals that there was much of it over there. The Japanese thought: "Our purpose in going to Matsumae to conduct trade is ultimately to gain profit. As long as there is profit to be made, it doesn't matter where the place is." Therefore, they decided to win over these people, have them show where the ginseng could be found, load their three ships full, and return home - wouldn't that be splendid? When one person spoke, all the crew members shared the same sentiment and agreed it was reasonable. Then they told the three men that they would give them rice if they would show them where the ginseng grew, and they