翻刻!江戸の医療と養生

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酒説養生論 7巻 - 翻刻

酒説養生論 7巻 - ページ 124

ページ: 124

翻刻

【右丁】 則(すなはち)吐(はき)只(たゝ)好(このみ)て冷水(れいすい)を飲(のむ)といへとも是 亦(また)留(とゝまる)事を得(え)ず 煩(わつらはし)く悶(もたへ)燥渇(かはき)て多(おほく)は治(ぢ)せざるに至(いたる)酒人(しゆじん)此症(このしやう)を為(なす)事 甚(はなはた)多(おほ)し常(つね)に飲(のみ)て吐(と)を為(なし)易(やすき)者(もの)は是を慮(をもんはかり)て大飲(たいいん)を 止(やむ)る時(とき)は此(この)患(うれひ)を免(まぬかる)へし酒(さけ)の此病(このやまひ)を為(なす)事 独(ひとり)今日(けふ)のみ にあらず古(いにしへ)も亦(また)多(おほ)かるへし中(なか)にも彼(かの)艾子(がいし)と云(いひ)ける 人(ひと)はさばかり智弁(ちへん)の人(ひと)なりけるに大(おほい)に酒(さけ)を好(このみ)て常(つねに) 醒(さむる)日(ひ)少(すくな)し其(その)弟子(ていし)の輩(ともから)是を憂(うれひ)て相共(あいとも)に謀(はかり)て云(いひ) けるは徒(たゞ)に諫(いさむ)るのみにては止(やむ)へからず険事(けはしきこと)にて是を 怵(おびやかす)へしとて彼(かの)艾子(かいし)大(おほい)に飲(のみ)て吐逆(ときやく)を為(なし)けるに其(その) 【左丁】 弟子(ていし)密(ひそか)に彘(いのこ)の腸(はらわた)を吐逆(ときやく)の中(うち)に入(いれ)置(をき)是を見(み)せて 凡(をよそ)人(ひと)は五蔵(こさう)を具(そなゆ)今(いま)公(こう)酒(さけ)に因(より)て一蔵(いちさう)を吐出(はきいた)せり五(こ) 蔵(さう)の中(うち)一蔵(いちさう)すでに出(いて)ては生(いく)る事 有(ある)へからずと云(いひ)け れは艾子 熟(つり〳〵)【つく〳〵ヵ】是を視(み)て大(おほい)に笑(わらひ)て唐(たう)の三蔵(さんさう)尚(なを)世(よ) に活(いき)たり況(いはん)や四蔵(しさう)をやとそ云(いへ)りける此(この)唐(たう)の三(さん) 蔵(さう)とは唐(たう)の代(よ)の僧(そう)経律論(きやうりつろん)の三(みつ)に通達(つうだつ)せるを三(さん) 蔵(さう)といへり是は蔵府(さうふ)の事にはあらねども文字(もんし)の同(をなし) きゆへに戯(たはふれ)にかくは云(いひ)たるなり此(この)艾子(かいし)は総(すへ)ておかし き人(ひと)にて能(よく)戯言(たはふれこと)にて事の道理(たうり)を云(いひ)けるなり其(その)

現代語訳

【右丁】 すなわち吐いてしまい、ただ好んで冷水を飲むといっても、これもまた留まることができず、煩わしく悶え、燥いて渇き、多くは治らないに至る。酒飲みがこの症状になることは非常に多い。常に飲んで吐きやすい者は、これを考慮して大酒を止める時は、この患いを免れるであろう。酒がこの病気を起こすことは、独り今日のみではなく、古くもまた多かったであろう。中でもあの艾子という人は、それほど智弁の人であったのに、大いに酒を好んで常に醒める日が少なかった。その弟子たちはこれを憂いて、相共に謀って言ったのは「ただ諫めるだけでは止まないであろう。恐ろしいことでこれを脅かそう」として、あの艾子が大いに飲んで嘔吐をした時に、その 【左丁】 弟子が密かに豚の腸を嘔吐物の中に入れ置き、これを見せて「おおよそ人は五臓を具えている。今、あなたは酒によって一臓を吐き出した。五臓の中の一臓がすでに出てしまっては、生きることはできないであろう」と言ったところ、艾子はつくづくとこれを見て大いに笑って「唐の三蔵なお世に生きている。ましてや四蔵をや」と言った。この唐の三蔵とは、唐の時代の僧で、経律論の三つに通達した者を三蔵という。これは臓腑のことではないが、文字が同じであるため、戯れにこのように言ったのである。この艾子は総じておかしな人で、よく戯言で事の道理を言ったのである。その

英語訳

[Right page] they immediately vomit it up. Even when they prefer to drink only cold water, this too cannot be retained. They suffer from troublesome agitation, dryness and thirst, and in most cases it becomes incurable. Alcoholics very frequently develop this condition. Those who habitually drink and vomit easily should consider this and stop heavy drinking, then they could avoid this affliction. Alcohol causing this disease is not unique to today alone - it was probably also common in ancient times. Among such cases, there was a person called Gaizi who, despite being a person of such intelligence and eloquence, greatly loved alcohol and rarely had sober days. His disciples worried about this and conspired together, saying: "Merely admonishing him will not make him stop. We should frighten him with something terrible." So when Gaizi drank heavily and vomited, his [Left page] disciple secretly placed pig intestines among the vomit and showed this to him, saying: "Generally, people possess five organs. Now you have vomited out one organ due to alcohol. With one of the five organs already expelled, you cannot possibly survive." Gaizi looked at this intently and laughed heartily, saying: "The Tang Tripitaka still lives in this world - how much more so with four organs!" This "Tang Tripitaka" refers to a Tang dynasty monk who mastered the three areas of sutras, precepts, and treatises, called "Tripitaka." This has nothing to do with the bodily organs, but because the characters are the same, he said this jokingly. This Gaizi was generally an amusing person who skillfully used jokes to express the principles of things. His