翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: コレクション2

酒説養生論 7巻 - 翻刻

酒説養生論 7巻 - ページ 126

ページ: 126

翻刻

【右丁】 しむへきに才術(さいしゆつ)もなき医(い)を用(もちゆ)るは鴨(あひる)に免(うさき)を 搦(とらへ)さするに同(をなし)かるへし真(まこと)に是 世(よ)の大(おほい)なる患(うれひ)なり医(い)も 亦(また)皆(みな)自(みつから)は鶻(たか)【注】のやうなる顔(かほ)をこそすれ彼(かの)鴨(あひる)のことく に脚(あし)を見(みせ)て有(あり)やうに我(われ)は鴨(あひる)なりと云(いふ)へき医人(いじん) も有(ある)ましけれは人(ひと)の惑(まとへる)も理(ことはり)なりされは常(つね)に能(よく)其能(そののう) 否(ひ)を試(こゝろみ)て鴨(あひる)に免(うさき)を搦(とらへ)さするの過(あやまち)なき事を 思(おもふ)へし   噎隔論 ○噎隔(いつかく)とは食物(しよくもつ)の咽(のど)の中(うち)に支(つかゆ)るを噎(いつ)と為(し)胸隔(けうかく)に 【左丁】 支(つかゆ)るを隔(かく)と為(なす)総(すへ)て食物(しよくもつ)の通(とほる)事を得(え)さる病(やまひ)なり 此症(このしやう)多(おほく)は別(へつ)に苦所(くるしむところ)なく食(しよく)を欲(ほつせ)ざるにもあらず初(はしめ)の 程(ほと)は食物(しよくもつ)の支(つかゆ)る事あり支(つかへ)ざる事も有(あり)て苦(くるしむ)に足(たら) ざるに似(に)たり漸々(ぜん〳〵)支(つかゆ)る事 甚(はなはた)しくて食物(しよくもつ)咽(のど)の中(うち)に 入(いれ)は痰涎(たんぜん)多(おほく)出(いて)て食物(しよくもつ)通(つう)ぜず重(をもき)に至(いたり)ては湯水(ゆみつ)といへ ども通(つう)ずる事を得(え)ず外(ほか)に苦所(くるしむところ)なしといへとも飲食(いんしい) を絶(たつ)ゆへに終(つゐ)に治(ぢ)せざるに至(いたる)なり此症(このしやう)古来(こらい)の説(せつ)に脾(ひ) 胃(ゐ)肝腎(かんじん)の火(ひ)を動(うごか)し血液(けつゑき)衰(をとろへ)耗(へり)胃脘(ゐくわん)枯槁(かれ)て此症(このしやう) を為(なす)といへり人(ひと)の息(いき)の出入(いていり)する道路(たうろ)を喉管(こうくわん)と云(いひ)食(しよく) 【注 あさなきどり。はやぶさ。】

現代語訳

【右丁】 させるべきなのに才能も技術もない医者を用いるのは、鴨に兎を捕らえさせるのと同じであろう。本当にこれは世の中の大きな憂いである。医者もまた皆、自分では鷹のような顔をしているが、あの鴨のように脚を見せて、ありのままに「私は鴨である」と言うべき医者もいないであろうから、人が迷うのも道理である。だから常によくその能力の有無を試して、鴨に兎を捕らえさせるような過ちのないことを考えるべきである。   噎隔論 ○噎隔とは、食物が咽喉の中につかえるのを「噎」とし、胸の隔膜部分に 【左丁】 つかえるのを「隔」とする。総じて食物が通ることができない病気である。この症状は多くの場合、別に苦しむところもなく、食欲がないわけでもない。初めのうちは食物がつかえることもあり、つかえないこともあって、苦しむに足らないように思われる。だんだんつかえることが甚だしくなって、食物を咽喉の中に入れると痰や唾液が多く出て、食物が通らなくなる。重症に至っては、湯水といえども通ることができない。他に苦しむところはないといっても、飲食を絶つため、ついに治らないに至るのである。この症状について、古来の説では、脾・胃・肝・腎の火を動かし、血液が衰え減って、胃の入り口が枯れ果ててこの症状を起こすという。人の息の出入りする道を喉管といい、食

英語訳

[Right page] To employ a doctor without talent or skill would be the same as making a duck catch rabbits. Truly, this is a great concern of the world. Doctors also all put on the face of hawks, but there would be no doctor who, like that duck, would show his feet and honestly say "I am a duck." Therefore, it is reasonable that people become confused. Thus, one should always test well whether they have ability or not, and consider avoiding the mistake of making a duck catch rabbits.   Theory on Choking and Obstruction (Eikaku) ○Eikaku refers to food getting stuck in the throat, which is called "ei," and getting stuck in the chest diaphragm area, [Left page] which is called "kaku." Generally, it is a disease where food cannot pass through. This condition often has no other particular source of suffering, nor is there necessarily a lack of appetite. In the beginning, food sometimes gets stuck and sometimes does not, seeming insufficient to cause real distress. Gradually the obstruction becomes severe, and when food enters the throat, much phlegm and saliva emerge, preventing food from passing. In severe cases, even hot water cannot pass through. Although there may be no other sources of suffering, because eating and drinking are cut off, it eventually becomes incurable. Regarding this condition, ancient theories state that it disturbs the fire of the spleen, stomach, liver, and kidneys, causing blood to weaken and diminish, and the stomach opening to wither, thus causing this condition. The pathway for human breathing is called the throat tube, and for food