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【右丁】
に満(みち)肝(かん)浮(うかみ)胆(たん)横(よこたは)り是時(このとき)に当(あたり)て固(もとより)勇士(ゆうし)に比(ひ)す気(き)衰(をとろふ)る
時(とき)は悔(くゆ)勇士(ゆうし)と類(るい)を同(をなし)くして是(これ)を避(さくる)事(こと)を知(しら)ず名(な)
づけて酒悖(しゆぼつ)と云(いふ)類註(るいちう)に酒(さけ)に因(より)て悖逆(ぼつぎやく)のもとりさかふ
事を為(なす)ゆへに酒悖(しゆほつ)と云(いふ)といへり凡(をよそ)人(ひと)の常(つね)には謹慎(つゝしみ)ふかく
温和(をんくは)にて怒(いかり)争(あらそふ)事(こと)を好(このま)さる者(もの)も酒(さけ)に醉(ゑひ)ては妄(みたり)に罵(のり)怒(いかり)目(め)
を瞋(いから)し声(こゑ)を揚(あけ)争(あらそひ)を好(このみ)闘(たゝかひ)を為(なし)或(あるひ)は自(みつから)智(ち)あり勇(ゆう)ありと
為(し)て貴人(きにん)親疎(しんそ)をも避(さけ)さるに至(いたる)病源論(ひやうけんろん)には是(これ)を悪酒(あくしゆ)と云(いひ)
千金方(せんきんはう)には悪酒(あくしゆ)健嗔(けんしん)といへり世(よ)にはかゝる者(もの)を醉興(すいきやう)暴悪(ほうあく)
喜(このみ)て是(これ)を為(なす)やうに思(をもへ)ともさにあらず経(きやう)に云所(いふところ)のごとくなれ
【左丁】
は内蔵府(うちさうふ)よりして是(これ)を為(なす)一時(いちし)酒(さけ)に中(あて)らるゝ病(やまひ)なり
其人(そのひと)自(みつから)はかゝる事を欲(ねかは)ざれども蔵府(さうふ)の動(うこき)躁(さはき)て其常(そのつね)
を変(へん)じ内(うち)より外(ほか)に達(たつ)して然(しか)らしむ故(かるかゆへ)に醒(さめ)て後(のち)は
常(つね)に異(こと)なる事なし此病(このやまひ)にては言(こと)を誤(あやまり)行(かう)を愆(あやまり)或(あるひ)は
人(ひと)を毀(そこなひ)身(み)を傷(やふり)法令(はふれい)を犯(をかし)罪(つみ)を得(うる)事あり実(まこと)に恐(をそる)へし
縦(たとひ)当時(たうじ)に身(み)を亡(ほろほす)事はあらずともかく物(もの)も覚(をほへ)ざることく
に気血(きけつ)蔵府(さうふ)を悩乱(なうらん)して常(つね)に止(やま)ざる時(とき)は終(つゐ)には又 他(た)の
病症(ひやうしやう)をも致(いたす)へしされは何(いつれ)の道(みち)にも安穏(あんをん)なる事を得(え)
難(かた)し扨(さて)さのことく言行(けんかう)を愆(あやまり)罪戻(ざいれい)を致者(いたすもの)ありとても
現代語訳
【右丁】
に満ち、肝が浮き上がり胆が横たわる。この時に当たって、もとより勇士に匹敵する気となり、気が衰える時は後悔するが、勇士と同類となってこれを避けることを知らない。これを酒悖と名づける。類註には「酒によって悖逆の道理に逆らうことを為すゆえに酒悖という」とある。およそ人が普段は謹慎深く温和で、怒り争うことを好まない者も、酒に酔っては妄りに罵り怒り、目を怒らせ声を上げ、争いを好み闘いを為し、或いは自ら智があり勇があるとして、貴人や親疎をも避けないに至る。病源論にはこれを悪酒といい、千金方には悪酒健嗔といっている。世間ではこのような者を酔興、暴悪を好んでこれを為すように思うけれども、そうではない。経に言うところのごとく
【左丁】
内臓府からしてこれを為す、一時的に酒に中てられる病である。その人自らはこのようなことを欲しないけれども、臓府の動きが騒がしくてその常態を変じ、内から外に達してそうさせるがゆえに、醒めて後は普段と異なることはない。この病においては言を誤り、行いを過ち、或いは人を損ない身を傷つけ、法令を犯し罪を得ることがある。実に恐るべきである。たとえ当時に身を滅ぼすことはなくとも、このように物も覚えないほどに気血・臓府を悩乱して常に止まない時は、ついには他の病症をも引き起こすであろう。されば何の道においても安穏なることを得難い。さてそのごとく言行を過ち罪過を犯す者があるとしても