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【右丁】
して土中(とちう)に坎(あな)を掘(ほり)彼(かの)女(むすめ)を坎中(かんちう)に舁入(かきいれ)て
その扉(とほそ)を扄(とざし)をき其(その)家人(かしん)に云(いひ)けるは手足(てあし)を動(うこかし)
声(こゑ)を出(いたさ)は告(つげ)来(きたる)へしと暫(しはらく)ありて此(この)女(むすめ)手足(てあし)を
動(うこかし)て呼(よび)けれは可久(かきう)に是を告(つけ)けるに薬(くすり)一丸(いちくはん)を
用(もちひ)て明日(めいしつ)坎中(かんちう)より出(いたし)けれは病(やまひ)愈(いえ)たるとなり
是はその女(むすめ)香(かう)を好(このみ)て香気(かうき)の為(ため)に中(あて)られたる病(やまひ)
なりけるとなん是等(これら)をは風流(ふうりう)の病(やまひ)とも云(いふ)へ
しや香(かう)さへ過(すぎ)て好(このめ)は病(やまひ)を為(なす)況(いはん)や酒(さけ)をや笑(わらひ)
物語(ものかたり)を集(あつめ)たる物(もの)の中(なか)に昔(むかし)一人(ひとり)の貧窮(ひんきう)の学(がく)
【左丁】
者(しや)ありて他人(たしん)の家(いゑ)に行(ゆき)て寄(より)宿(やど)らん事を求(もとめ)
けるに其 家(いゑ)の主(あるし)謙退して我等(われら)体(てい)の事なれば
させる馳走(ちさう)もなり難(かた)しと云(いひ)けれは此(この)学者(がくしや)只(たゝ)
急(きふ)に宿(やどり)を得(え)ん事を思(おもひ)て何(なに)も馳走(ちさう)には及(をよは)ず
豆腐(とうふ)は学生(がきせい)が性命(せいめい)なりと云(いひ)ける是は豆腐(とうふ)は
好物(かうふつ)にて我(わか)命(いのち)なるといへるなり主(あるし)もその心易(こゝろやすき)
を喜(よろこひ)て彼(かの)学生(かくせい)を留(とゝめ)けり扨(さて)食事(しよくじ)を出(いたし)けるにさり
とて豆腐(とうふ)のみにても済(すま)ざれは魚肉(きよにく)の類(たくひ)をも出(いたし)
例(れい)の豆腐(とうふ)も出(いたし)けるに此(この)先生(せんせい)豆腐(とうふ)には手(て)も付(つけ)
現代語訳
【右丁】
して土中に穴を掘り、かの娘を穴中に担ぎ入れて、その扉を閉ざしておき、その家人に言ったのは「手足を動かし声を出したら告げに来るべし」と。しばらくあって、この娘が手足を動かして呼んだので、可久にこれを告げたところ、薬一丸を用いて翌日穴中より出したところ、病が癒えたということである。これはその娘が香を好んで、香気のために中毒した病であったということだ。これらを風流の病とも言うべきだろうか。香でさえ過度に好めば病を為す、まして酒はなおさらである。笑い話を集めたもののなかに、昔一人の貧窮の学
【左丁】
者がいて、他人の家に行って一夜の宿を求めたところ、その家の主人が謙遜して「我等のような身分の者ですから、たいした馳走もできません」と言ったので、この学者はただ急に宿を得ることを思って「何も馳走には及びません。豆腐は学生の性命です」と言った。これは豆腐が好物で自分の命であるということを言ったのである。主人もその気軽さを喜んで、かの学生を留めた。さて食事を出したが、さりとて豆腐のみでは済まないので、魚肉の類も出し、例の豆腐も出したところ、この先生は豆腐には手も付け
英語訳
【Right page】
and dug a hole in the earth, carried the daughter into the hole, closed the door, and told the family members: "If she moves her hands and feet and makes sounds, come and tell me." After a while, when this daughter moved her hands and feet and called out, they reported this to Kakyu, who gave her one pill of medicine and had her brought out of the hole the next day, whereupon her illness was cured. This was because the daughter loved incense and had been poisoned by the incense fragrance. Should we call these "elegant illnesses"? Even incense, when loved excessively, causes illness—how much more so with alcohol! In a collection of amusing tales, there was once a poor schol-
【Left page】
ar who went to another person's house seeking lodging for the night. The master of the house humbly said, "We are people of modest means, so we cannot provide much of a feast." The scholar, thinking only of quickly securing lodging, said, "There is no need for any feast. Tofu is a student's life." By this he meant that tofu was his favorite food and was like life to him. The master, pleased by his easygoing nature, let the student stay. When he served the meal, since it would not do to serve only tofu, he also provided fish and meat, as well as the aforementioned tofu. However, this teacher did not even touch the tofu