翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: コレクション2

酒説養生論 7巻 - 翻刻

酒説養生論 7巻 - ページ 37

ページ: 37

翻刻

【右丁】 医(い)酒病(しゆひやう)を論(ろん)ずる者(もの)甚(はなはた)多(おほ)し篇中(へんちう)往々(わう〳〵)是(これ)を挙(あぐ)べし 抱朴子(はうはくし)には夫(それ)酒醴(しゆれい)の近味(きんみ)生病(せいひやう)の毒物(どくもつ)毫分(かうふん)の細益(さいゑき)なく 丘山(きうさん)の巨損(きよそん)あり君子(くんし)は是を以(もつ)て徳(とく)を敗(やふり)小人(せうじん)は是を以(もつ)て 罪(つみ)を速(まねく)これに耽(ふけり)これに惑(まどへ)は禍(わさはひ)に及(をよば)ざる事すくなし 又小大(せうたい)の喪乱(さうらん)酒(さけ)にあらざる事なししかれとも俗人(ぞくじん)は 是を酣(たのしみ)これを酒(みたる)衆患(しうくわん)を須臾(しゆゆ)に起(をこ)し百痾(ひやくあ)を膏肓(かうくはう) に結(むすふ)といへり朱丹渓(しゆたんけい)専(もつはら)酒(さけ)に因(より)て発(をこる)所の病(やまひ)数症(すしやう)を述(のぶ) その始(はしめ)は病(やまひ)浅(あさ)し或(あるひ)は嘔吐(をうと)或(あるひ)は自汗(じかん)或(あるひ)は瘡痍(さうい)或(あるひ)は 鼻査(びさ)或(あるひ)は自泄(じせつ)或(あるひ)は心脾痛(しんひつう)なを発散(はつさん)して去(さり)ぬへし 【左丁】 若(もし)それ久(ひさし)けれは病(やまひ)を為(なす)事 深(ふか)し消渇(せうかつ)と為(なり)内疽(ないそ)と 為(なり)肺痿(はいい)内痔(ないじ)鼓脹(こちやう)【皷は俗字】失明(しつめい)喘哮(せんかう)労嗽(らうそう)癲癇(てんかん)と為(なり)亦(また) 明(あきらめ)かたき病(やまひ)と為(なる)若(もし)眼(まなこ)を具(ぐ)するにあらざれは治(ぢ)し 易(やす)からずといへり李時珍(りじちん)の説(せつ)に痛(いたく)飲(のむ)時(とき)は神(しん)を傷(やふり) 血(ち)を耗(へら)し胃(ゐ)を損(そん)し精(せい)を亡(ほろほ)し痰(たん)を生(しやう)じ火(ひ)を動(うこかす) といへり凡(およそ)酒(さけ)の病(やまひ)を為(なす)者(もの)は重(おもふ)して治(ぢ)し難(がた)し大飲(たいいん)の 人(ひと)は十人(しふにん)に九人(くにん)は病(やまひ)を発(はつ)す病(やまひ)を発(はつす)る者(もの)は九人(くにん)に八人(はちにん) は治(ぢ)せずその治(ぢ)すると云(いふ)者(もの)も急(きふ)に命(めい)を殞(おとす)に至(いたら)ざ れども多(おほく)は痼疾(こしつ)癈棄(はいき)の人(ひと)と成(なり)て世(よ)に用(もちゆ)る事を

現代語訳

【右丁】 医者で酒による病気を論じる者は非常に多い。本書の中でも度々これを挙げるであろう。 『抱朴子』には「それ酒類というものは、味は美味であるが病気を生む毒物であり、わずかな利益もなく、山のように大きな害がある。君子はこれによって徳を敗り、小人はこれによって罪を招く。これに耽溺し、これに惑わされれば、禍いに及ばないことは少ない。また大小の混乱は酒によらないことがない。しかしながら俗人はこれを楽しみ、これに酔い、多くの病気を瞬時に起こし、様々な病気を体の奥深くに結びつける」とある。 朱丹渓は、専ら酒によって起こる病気の数症を述べている。その初期は病気は軽く、或いは嘔吐、或いは自然発汗、或いは瘡、或いは鼻の病気、或いは下痢、或いは心脾の痛みなど、発散させて治すことができる。 【左丁】 もしそれが長期間続けば、病気を起こすことは深刻である。消渇となり、内疽となり、肺痿、内痔、鼓脹、失明、喘哮、労嗽、癲癇となり、また治療が困難な病気となる。もし確かな見識がなければ治療しやすくないと言っている。 李時珍の説によると「大量に飲む時は神を傷つけ、血を消耗し、胃を損ない、精を失い、痰を生じ、火を動かす」とある。 おおよそ酒による病気は重篤で治療が困難である。大酒飲みの人は十人中九人が病気を発症する。病気を発症する者は九人中八人は治らない。その治ると言われる者も急に命を落とすまでには至らないものの、多くは慢性疾患や廃人となって、世の中で用いられることが

英語訳

【Right page】 There are very many physicians who discuss diseases caused by alcohol. This will be frequently mentioned throughout this text. The Baopuzi states: "Alcoholic beverages, while pleasant in taste, are toxic substances that generate disease, having no slight benefit but causing mountainous harm. The gentleman ruins his virtue through this, while the petty person invites crime through this. Those who indulge in and are deluded by this rarely escape calamity. Moreover, all great and small disorders stem from alcohol. Nevertheless, common people enjoy this and become intoxicated by it, instantly arousing numerous ailments and binding various diseases deep within the body." Zhu Danxi describes several symptoms of diseases caused specifically by alcohol. In the beginning, the illness is mild - perhaps vomiting, spontaneous sweating, sores, nasal conditions, diarrhea, or heart-spleen pain - which can be treated through dispersing methods. 【Left page】 If it continues for a long time, the disease becomes serious. It becomes wasting-thirst disease, internal abscess, lung atrophy, internal hemorrhoids, drum distention, blindness, wheezing, consumptive cough, and epilepsy, also becoming diseases difficult to clarify. Without proper discernment, treatment is not easy. According to Li Shizhen's theory: "When drinking heavily, it injures the spirit, depletes the blood, damages the stomach, destroys the essence, generates phlegm, and stirs up fire." Generally, diseases caused by alcohol are severe and difficult to treat. Among heavy drinkers, nine out of ten people develop illness. Among those who develop illness, eight out of nine cannot be cured. Even those said to recover, while not immediately fatal, mostly become people with chronic diseases or disabilities, unable to be useful in society.