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【右丁】
もあれとも誰(たれ)か酒(さけ)にて長生(ちやうせい)を得(え)たる者(もの)ぞや昔(むかし)漢(かん)
の武帝(ふてい)の時(とき)に岳陽(がくやう)と云(いふ)所の酒香山(しゆかうさん)に仙酒(せんしゆ)あり是
を飲者(のむもの)は死(し)ぬる事なしと云(いふ)事ありて武帝(ぶてい)其 仙(せん)
酒(しゆ)を得(え)給(たまひ)けるに其 臣下(しんか)の東方朔(とうはうさく)是をぬすみて飲(のみ)
けれは武帝(ぶてい)大(おほい)に怒(いかり)給(たまひ)て東方朔(とうはうさく)を誅(ちう)せんとし給(たまへ)は
其 時(とき)方朔(はうさく)申けるは君(きみ)いかに臣(しん)を殺(ころし)給(たまふ)とも臣(しん)不死(ふし)の
酒(さけ)を飲(のみ)たれは死(し)ぬる事あるへからず臣(しん)若(もし)殺(ころ)されて
死(し)ぬへくは不死(ふし)の酒(さけ)の験(しるし)あらずと申けれは武帝(ぶてい)
も悟(さとり)て是を免(ゆるし)給(たまひ)けり是は武帝(ふてい)の仙術(せんしゆつ)を好(このみ)長生(ちやうせい)
【左丁】
不死(ふし)を求(もとめ)給(たまふ)の益(ゑき)なき事を諫(いさめ)んとて彼(かの)仙酒(せんしゆ)をも
ぬすみて飲(のみ)たるとや又 武帝(ふてい)外(ほか)に行幸(きやうかう)し給(たまひ)ける
道(みち)の辺(ほとり)にあやしき虫(むし)ありて色(いろ)赤(あか)く肝(かん)のことくにて
頭(かしら)目(め)口(くち)に至(いたる)まて委(こと〳〵)く具(そなは)れり人(ひと)是を知(しる)者(の)なし東(とう)
方朔(はうさく)に問(とひ)給(たまへ)は方朔(はうさく)申けるは此(この)所は古(いにしへ)秦(しん)の代(よ)の獄(ごく)
屋(や)の地(ち)なり此虫(このむし)は彼時(かのとき)の獄(ごく)屋に有(あり)ける人(ひと)の憂(うれひ)の積(かたまり)
なり憂(うれひ)は酒(さけ)を得(え)て解(とく)へしと申けれは地図(ちづ)を考(かんかへ)
させ給(たまひ)けるに果(はたし)て秦(しん)の獄地(こくち)なり彼(かの)虫(むし)を酒(さけ)の中(うち)
に入(いれ)けれは立所(たちところ)に消(きへ)て失(うせ)しとかや彼(かの)東方朔(とうはうさく)
現代語訳
【右丁】
もあるけれども、誰が酒によって長生を得た者であろうか。昔、漢の武帝の時に岳陽という所の酒香山に仙酒があり、これを飲む者は死ぬことがないということがあって、武帝がその仙酒をお得になったところ、その臣下の東方朔がこれを盗んで飲んだので、武帝は大いにお怒りになって東方朔を誅殺しようとなさったところ、その時方朔が申し上げたのは「君がいかに臣を殺しなさろうとも、臣は不死の酒を飲んだので死ぬことはありえません。臣がもし殺されて死ぬようでしたら、不死の酒の効験がないということです」と申し上げたので、武帝も悟ってこれをお許しになった。これは武帝が仙術を好み長生
【左丁】
不死を求めなさることの益のないことを諫めようとして、あの仙酒をも盗んで飲んだのであろうか。また武帝が他に行幸なさった道の辺りに怪しい虫がいて、色は赤く肝のようで、頭、目、口に至るまで詳細に備わっていた。人でこれを知る者はなし。東方朔にお尋ねになったところ、方朔が申し上げたのは「この所は古く秦の代の獄屋の地です。この虫は、その時の獄屋にいた人の憂いの塊です。憂いは酒を得て解けるでしょう」と申し上げたので、地図を考察させなさったところ、果たして秦の獄地であった。あの虫を酒の中に入れたところ、たちどころに消えて失せたということである。あの東方朔は
英語訳
【Right page】
may exist, but who has ever achieved longevity through alcohol? Long ago, during the time of Emperor Wu of Han, there was immortal wine on Mount Jiuxiang in a place called Yueyang, and it was said that those who drank it would never die. When Emperor Wu obtained this immortal wine, his retainer Dongfang Shuo stole and drank it. Emperor Wu became greatly enraged and tried to execute Dongfang Shuo, whereupon Shuo declared: "No matter how Your Majesty may kill this subject, having drunk the wine of immortality, this subject cannot die. If this subject should be killed and die, then the immortal wine has no efficacy." Hearing this, Emperor Wu came to his senses and pardoned him. This was because Wu Di favored immortal arts and sought longevity and
【Left page】
immortality, which Shuo sought to remonstrate as being without benefit by stealing and drinking that immortal wine. Also, when Emperor Wu was traveling elsewhere on an imperial journey, there was a strange insect by the roadside that was red in color like a liver, complete in detail from head to eyes to mouth. No one knew what it was. When he asked Dongfang Shuo, Shuo replied: "This place was formerly the site of a prison from the Qin dynasty. This insect is a mass of sorrow from the people who were in that prison at that time. Sorrow can be dissolved by obtaining alcohol." When he had maps examined, it was indeed a prison site from Qin times. When they put that insect into wine, it immediately dissolved and disappeared. That Dongfang Shuo