翻刻!江戸の医療と養生

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酒説養生論 7巻 - 翻刻

酒説養生論 7巻 - ページ 66

ページ: 66

翻刻

【右丁】 先(さき)なるはなし然(しかれ)ども此生(このせい)有(ある)にあらざれは是(これ)を施(ほとこし) 行(おこなふ)事(こと)を得(え)ず然(しかれ)は此(この)生命(せいめい)を養(やしなふ)は人事(じんじ)第一(だいいち)の要務(えうむ) なり扨(さて)人(ひと)は同(おなし)く貴(たつとし)といへども又(また)上下(じやうげ)の品(しな)ありて 王侯(わうこう)大人(たいじん)爵位(しやくゐ)あるを貴人(きにん)とし民庶(みんしよ)奴隷(ぬれい)官(くわん) 録(ろく)なきを賎人(せんじん)とす其(その)賎人(せんじん)なりとても生命(せいめい)を 養(やしなふ)事(こと)はなくはあるべからず然(しか)るを況(いはん)や貴人(きにん)をや 故(かるかゆへ)に凡(をよそ)貴人(きにん)大人(たいじん)は衣服(いふく)飲食(いんしい)宮室(きうしつ)車馬(しやば)嬖幸(へいかう) 使令(しれい)に至(いたる)まて悉(こと〳〵く)皆(みな)善美(せんび)をつくさずと云(いふ)事(こと)なし 是(これ)皆(みな)生命(せいめい)を養(やしなひ)給(たまふ)の事なり唯(たゝ)其(その)然(しか)るのみにあらず 【左丁】 一言(いちげん)一黙(いちもく)起居(ききよ)動静(どうせい)疾病(しつへい)遊歓(ゆうくわん)に至(いたる)まて身(み)自(みつから) 是を慎(つゝしみ)其(その)下(しも)なる者(もの)も慎(つゝしみ)を以(もつて)是を奉(ほう)じて只(たゝ)毫(かう) 厘(り)も生命(せいめい)に害(かい)あらん事を恐(おそれ)ざる事なし是 固(まこと)に 貴人(きにん)の法則(はふそく)なり扨(さて)こそ災(さい)なく害(かい)なふして社稷(しやしよく) 宗廟(そうひやう)を護(まもり)寿考(しゆかう)長命(ちやうめい)にして子孫(しそん)繁昌(はんしやう)に至(いたる)誠(まこと)に目(め) 出度(てたき)事にあらずや然(しか)るに富貴(ふうき)の人(ひと)多(おほく)は壮年(さうねん)にして 病患(ひやうくわん)を為(なし)て救(すくは)ざるに至(いたる)事あり是(これ)何事(なにこと)に因(より)て然(しか)る 事を致(いたす)ぞと云(いふ)に多(おほく)は皆(みな)酒(さけ)に因(より)てなり其(その)故(ゆへ)はいかにと なれは先(まつ)富貴(ふうき)大人(たいしん)は常(つね)に営業(いとなむわざ)もなく閑(しつか)に暇(いとま)ある

現代語訳

【右丁】 第一なるものはない。しかしながら、この生命があるのでなければ、これを実行することができない。それであれば、この生命を養うことは人事第一の要務である。さて、人は同じく貴いといっても、また上下の階級があって、王侯や大人で爵位があるものを貴人とし、民衆や奴隷で官職や俸禄のないものを賤人とする。その賤人であっても生命を養うことは欠かすことはできない。ましてや貴人においてはなおさらである。そのため、およそ貴人や大人は、衣服・飲食・住居・車馬・愛妾・使用人に至るまで、ことごとくみな善美を尽くさないということはない。これはみな生命を養うためのことである。ただそれだけではなく、 【左丁】 一言一黙、起居動静、疾病、遊楽に至るまで、身みずからこれを慎み、その配下の者もまた慎みをもってこれに奉仕して、ただわずかでも生命に害があることを恐れないことはない。これはまことに貴人の法則である。そうしてこそ災いなく害なくして国家を護り、長寿を保って子孫繁栄に至る。まことにめでたいことではないか。しかるに富貴の人の多くは壮年にして病気になって救われないに至ることがある。これは何によってそのような事態を招くのかというと、多くはみな酒によるものである。その理由はどうかというと、まず富貴な大人は常に営む業もなく静かに暇がある

英語訳

【Right page】 ...is the foremost. However, without this life, one cannot practice these virtues. Therefore, nurturing this life is the foremost duty among all human affairs. Now, although humans are equally precious, there are also distinctions of high and low status: those who are kings, lords, and great men with noble ranks are called noble people, while commoners, slaves, and those without official positions or stipends are called base people. Even these base people cannot neglect nurturing their lives. How much more so for noble people! Therefore, generally speaking, noble people and great men spare no effort in achieving excellence in everything from clothing, food and drink, palaces, carriages and horses, to favored concubines and servants. All of this is for the purpose of nurturing life. And not only that, 【Left page】 from every word and silence, daily activities and rest, illness, and entertainment, they themselves exercise caution in these matters, and their subordinates also serve them with caution, never failing to fear even the slightest harm to life. This is truly the principle of noble people. Only in this way can they protect the nation without disaster or harm, maintain longevity, and achieve prosperity for their descendants. Is this not truly auspicious? However, many wealthy and noble people often fall ill in their prime years and reach the point where they cannot be saved. What causes such circumstances? In most cases, it is all due to alcohol. As for the reason why, first, wealthy great men usually have no regular occupation and live in quiet leisure...