翻刻!江戸の医療と養生

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酒説養生論 7巻 - 翻刻

酒説養生論 7巻 - ページ 68

ページ: 68

翻刻

【右丁】 是を過度(くはど)するに至(いたり)ては其 害(かい)を為(なす)事や泰山(たいさん)を以(もつて)雞(たま) 卵(ご)を雞(をす)【ママ】ことくなるへし然(しか)るに他(た)の保養(ほうやう)諸(もろ〳〵)の事に至(いたり)ては 是を慎(つゝしむ)の至(いたら)さる事なふして第一(たいいち)に恐(をそれ)慎(つゝしみ)給(たまふ)へき酒(さけ) の病(やまひ)を為(なす)に至(いたり)ては少(すこし)もこれを厭(いとひ)給(たまは)さるはいかにぞやお もふに是 凡(をよそ)大人(たいしん)たる人(ひと)自(みつから)生命(せいめい)を愛(あい)せずして然(しか)るにも あらす又 酒(さけ)は過(すぐ)るとも病(やまひ)を為(なす)事はあらずと能(よく)知(しり)て 然(しか)るにもあらす又 皆(みな)無智(むち)愚蒙(ぐもう)にして然(しか)るにもあらず 是 只(たゝ)酒(さけ)の病(やまひ)を為(なす)事はなはた大(おほい)なる事を知(しり)給(たまは)ずして 然(しか)るものなり知(しら)ずして是を為(なす)は皆(みな)過(あやまち)なり大人(たいしん)たる 【左丁】 人(ひと)は過(あやまち)て其(その)毛髪(まうはつ)をも毀(そこなふ)事は為(なす)まじきなり然(しか)るを 況(いはん)や生命(せいめい)に預(あつかる)事をや然(しかれ)とも彼(かの)おと大人(たいしん)の自(みつから)是を知(しり)給(たまは) ざるは大(おほい)に理(ことはり)なり元(もと)より医術(いしゆつ)も知(しり)給(たまは)されは何(なんそ)能(よく) 保養(ほうやう)の道(みち)をも知(しり)給(たまは)ん又 人(ひと)の酒(さけ)に因(より)て病(やまひ)を為(なす)者(もの)あり といへとも自(みつから)是(これ)を見(み)給(たまふ)事もなし又其 下(しも)なる者(もの)もか かる事を我(われ)賢(かしこ)げに諫(いさめ)争(あらそふ)者(もの)も世(よ)に稀(まれ)なれは何(なに)に つけても能(よく)是を知(しり)給(たまふ)へきやうはなき事なり縦(たとひ)其(その) 下(しも)なる者(もの)是を諫(いさむ)へき者(もの)ありとも其事の浅(あさき)には諫(いさむ) るにも及(をよは)ず事の深(ふかき)に至(いたり)ては是を諫(いさむ)るとも聞得人(きゝうるひと)も

現代語訳

【右丁】 これを過度にするに至っては、その害をなすことは泰山を以って鶏卵を押すようなものであろう。しかるに他の保養諸々の事に至っては、これを慎むことが足りないことはなく、第一に恐れ慎み給うべき酒の病をなすに至っては、少しもこれを厭い給わないのはいかがなものであろうか。思うに、これはおよそ大人たる人が自ら生命を愛さないからでもなく、また酒は過ぎても病をなすことはないとよく知ってのことでもなく、また皆無知愚昧だからでもない。これはただ酒の病をなすことがはなはだ大なることを知り給わないからである。知らずしてこれをなすのは皆過ちである。大人たる 【左丁】 人は過ってその毛髪をも損なうことはなすべきではない。まして生命に関わることをや。しかれども、あの大人が自らこれを知り給わないのは大いに道理がある。元より医術も知り給わないので、どうしてよく保養の道をも知り給おうか。また人の酒によって病をなす者がいるといっても、自らこれを見給うこともない。またその下の者も、このようなことを我が賢げに諫め争う者も世に稀であるので、何につけてもよくこれを知り給うべきようはないことである。たとえその下の者でこれを諫むべき者がいるとも、その事の浅きには諫むるにも及ばず、事の深きに至ってはこれを諫むるとも聞き入れる人も

英語訳

【Right page】 When they consume this excessively, the harm it causes would be like using Mount Tai to crush a chicken egg. However, while they are never lacking in caution regarding all other matters of health preservation, when it comes to alcohol's causing illness—which should be the first thing to fear and guard against—they show no aversion to it whatsoever. How can this be? I think it is not because such great men do not love their own lives, nor because they know well that alcohol causes no illness even when consumed excessively, nor because they are all ignorant and foolish. It is simply because they do not know that alcohol's capacity to cause illness is extremely great. To do something unknowingly is entirely a mistake. A person of great standing 【Left page】 should not mistakenly harm even a single hair on their head, much less something that affects their life. However, it is quite reasonable that these great men do not know this themselves. Since they originally know nothing of medical arts, how could they possibly know the way of health preservation? Even though there are people who fall ill due to alcohol, they never see this for themselves. Moreover, among their subordinates, those who would wisely admonish and argue against such behavior are rare in this world, so there is no way for them to come to know this well. Even if there were subordinates who should admonish them, when the matter is trivial, there is no need for admonishment, and when the matter becomes serious, even if they admonish, there would be no one to listen.