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酒説養生論 7巻 - 翻刻

酒説養生論 7巻 - ページ 92

ページ: 92

翻刻

【右丁】 法令(はふれい)は出(いつ)る所は理(り)有(あれ)ども事の末(すゑ)に至(いたり)ては弊(ついえ)有(ある)事 も亦(また)多(おほ)し三国(さんこく)蜀(しよく)の先主(せんしゆ)の時(とき)天旱(ひでり)にて米穀(へいこく)の乏(とぼしき) によりて酒(さけ)を造(つくる)事を禁(きん)しけり役人(やくにん)打廻(うちまはり)て酒(さけ)は 造(つくら)ざれとも醸具(じやうぐ)とて酒(さけ)を造(つくる)へき道具(たうく)を持(もち)たる 者(もの)まても罪(つみ)に行(おこなは)んとそしたりける其頃(そのころ)先主(せんしゆ)其 臣下(しんか)の簡雍(かんやう)と云者(いふもの)と出(いて)て遊観(ゆうくはん)し給(たまへ)りしに 男女(おとこおんな)の道行(みちゆく)者(もの)ありけるを見(み)て彼(かの)簡雍(かんやう)先主(せんしゆ)に 申(まうし)けるは此(この)男女(なんによ)不義(ふぎ)を行(おこなは)んとす召捕(めしとり)て罪(つみ)に行(おこなひ)給(たまへ) とそれは何(なに)ゆへ是を知(しる)やと問(とひ)たまへはされは此(この)男(なん) 【左丁】 女(によ)いつれも不義(ふぎ)を行(をこなふ)へき道具(たうく)を持(もち)たれは彼(かの)酒(さけ)道(たう) 具(く)を持(もち)たる者(もの)に同(おなし)事なりと申(まうし)ける是 酒(さけ)は造(つくら)ねど も其 道具(たうく)を持(もち)たりとて罪(つみ)に行(をこなは)んとするの僻事(ひかこと) なるを諫(いさめ)てさらば男女(なんによ)の不義(ふき)も行(をこなは)ざるに其 道具(たうく) を持(もち)たらはとて罪(つみ)に行(をこなふ)へき事かはと云(いひ)たるなり 先主(せんしゆ)大(おほい)に笑(わらひ)給(たまひ)て酒道具(さかたうく)持(もち)たる者(もの)を罪(つみ)する事を 止(やめ)給(たまひ)ける此(この)簡雍(かんよう)は性(せい)簡(をろそか)に傲(をごり)て主君(しゆくん)先主(せんしゆ)の前(まへ) にても安座(あんざ)し足(あし)を出(いたし)て礼儀(れいき)も知(しら)ぬやうなる人(ひと)なり けれともかやうに戯言(たはふれこと)に擬(なぞらへ)て能(よく)其君(そのきみ)を諫(いさめ)けり真(まこと)に

現代語訳

【右丁】 法令が出されるところには理由があるけれども、事の末端に至っては弊害があることもまた多い。三国時代の蜀の先主(劉備)の時、天候不順による干ばつで米穀が不足したため、酒を造ることを禁じた。役人が巡回して、酒は造らなくても、醸具といって酒を造るための道具を持っている者までも罪に処そうとした。その頃、先主がその臣下の簡雍という者と外に出て遊観なさっていたところ、男女が道を歩いているのを見て、あの簡雍が先主に申し上げたのは「この男女は不義を行おうとしています。召し捕って罪に処してください」と。「それは何故そのことが分かるのか」とお尋ねになると、「それはこの男 【左丁】 女はいずれも不義を行うための道具を持っているからで、あの酒道具を持っている者と同じことです」と申し上げた。これは酒は造らなくても、その道具を持っているからといって罪に処そうとするのが偏見であることを諫めて、「それならば男女の不義も行わないのに、その道具を持っているからといって罪に処すべきことだろうか」と言ったのである。先主は大いに笑われて、酒道具を持っている者を罪することをお止めになった。この簡雍は性格が大雑把で傲慢で、主君である先主の前でも安座し足を出して、礼儀も知らないような人であったけれども、このように戯言に例えて、よくその君主を諫めた。まことに

英語訳

【Right Page】 Laws and regulations have their reasons when they are issued, but when it comes to their detailed implementation, there are often harmful effects as well. During the time of the First Ruler (Liu Bei) of Shu in the Three Kingdoms period, wine production was prohibited due to a shortage of grain caused by drought. Officials patrolled the area, and even those who did not brew wine but possessed brewing equipment - tools for making wine - were to be punished. Around that time, the First Ruler was out sightseeing with one of his retainers named Jian Yong, when they saw a man and woman walking along the road. Jian Yong said to the First Ruler, "This man and woman are about to commit adultery. Please have them arrested and punished." When asked "How do you know this?" he replied, "Well, this man 【Left Page】 and woman both possess the tools for committing adultery, which is the same as those who possess wine-making equipment." This was meant to remonstrate against the prejudiced policy of punishing people for possessing brewing tools even when they weren't making wine, saying "If that's the case, should men and women be punished for possessing the 'tools' for adultery even when they're not committing it?" The First Ruler laughed heartily and stopped punishing those who possessed wine-making equipment. This Jian Yong was a person of casual and arrogant nature who would sit comfortably and stretch out his legs even in front of his lord the First Ruler, seeming to know nothing of proper etiquette. However, he skillfully admonished his ruler through such playful analogies. Truly