翻刻
銭廿五文被下候事此国の風にて永く棺(クワン)を作りあけごしにて寺に送る
和尚へ罷出 引導(インドウ)を致被下候と願候所宗旨は別宗なれは引導するに
不及とて経(キヤウ)も不読(ヨマス)也他国者の墓(ハカ)所は別に有迚諸国の人々の墓の有ける
所へ葬(ホウムル)也 吉郎治病気 重(ヲモ)くなり残命難計と思ふ頃吉郎次声をあけ
苦(クル)敷声にて私ともに云けるはかく重病なれは此地にて死るならん何
卒命なからへ日本へ帰らんと神仏を祈(イノ)る甲斐(カイ)もなく今死する事
の残念也身死たりとも魂魄(コンハク)則此地を去り日本へ帰る也各も病気等にも
あらんよふに身を大切にして命なからへはやく日本へ立帰り我死たる
事も語りくれかしとさめ〳〵となけきけれは言葉も不通のヲロ
シヤの人々友に袖をぬらしいと哀れにも愁傷(シユシヤウ)也
一寺数十七八ヶ寺も可有之 宗旨(シウシ)は切支(キリシ)テイと云宗門此所の老人のはなしに
往古(ヲウゴ)は切支丹宗にて色々の術(シユツ)も行(ヲコナイ)しと云伝しか近年に至り被相 禁(キンゼ)
宗旨を改不思儀なる術は止(ヤメ)しといへる也出家も俗(ゾク)に同し縫■
を着し其上に衣を着し衣の袖も縫■のことし裾(スソ)計衣の様に広し
肉喰(ニグジキ)にて妻子有り精進(シヤウヂン)の日は獣(ケダモノ)を不用魚計食す也俗家も同し
なり寺の本尊といへるは神なるか仏なるか是を不知板に絵(エ)
像(ゾウ)を書正面に掛置也其絵姿人間にもあらす鬼にもあらす何にやら
わからぬ形也俗家にも有り是を信心す
一老人の寝起(ネヲキ)する時ゴスホヂン日本ミコウヤイと唱也此事如何なる
事と尋(タツネ)けるに其人々の曰日本人は南無阿弥陀仏と云ふ事成といふ