翻刻!江戸の医療と養生

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救急摘方 2巻 - 翻刻

救急摘方 2巻 - ページ 75

ページ: 75

翻刻

【右丁】 施(ホドコシ)て効(コウ)を得べきは、呼吸(イキ)絶(タエ)、耳目口 鼻(ハナ)の機転(ハタラキ)も絶(タエ)たるが 如くなれども、静(シヅカ)にこれを候(ウカヾフ)に、唇(クチビル)微(スコシ)く牽引(ヒキウゴク)もの、燭火(トモシビ) を取(トリ)て、其(ソノ)面(カホ)を照(テラ)せば、瞳子(ヒトミ)収縮(チヾミ)、燭火(トモシビ)を遠(トホ)ざくれば、再(フタヽビ)濶(ヒロ) 大(ガリ)て元(モト)の如くなるもの、鳩尾(ミヅオチ)を診(ウカヾ)へば、指頭(ユビノサキ)に微温(スコシノアタ[ヽ]マリ)を覚(オボユ)る もの、鳥(トリノ)羽(ハ)もしくは燭光(トモシビ)を以て口 鼻(ハナ)に近(チカ)づくれば、鳥羽も しくは燭光の微(スコシ)く動(ウゴク)もの、口を耳に寄て其名を呼ば、面肉(カホノニク) 微(スコシ)く掣動(ウゴク)もの、眼(メ)の左(ヒダリ)にあれ右(ミギ)にあれ、一 眼(ガン)は開き一眼 は瞑(フサグ)もの、頬(ホウ)にをり〳〵微(イサヽカ)赤色(アカミ)を見(アラハ)すもの、眉(マユノ)上(ウヘ)の肉(ニク)を指(ユビ) にて按(オセ)ば陥凹(クボク)なり、これを放(ハナツ)ときは、漸(シダイ)に故(モト)に復(カヘル)もの、此 八(ヤツノ)候(ウカヾヒ)の中一二の応(オウ)あらば、速(スミヤカ)に治を施(ホドコス)べし、凍死たる者 【左丁】 を歘(タチマチ)【焱+力は誤記】に温暖(アタヽメ)んとして火に近つけ、または温覆(トリカブセ)などする と、復(カヘル)べき気息(イキ)も出ること能(ナラ)ずして、遂(ツヒ)に死ぬるものなり、 もと凍(コヾエ)て四肢(テアシ)の強直(ギゴハ)になり気息(イキ)の絶(タエ)たるは、酷寒収縮(ヒエカヾマル) 気(キ)の為(タメ)に呼吸(イキ)の往来(カヨヒ)を圧止(オサヘ)たるにて、内藏(ハラノウチ)【ママ】挂碍(サハリ)なき が故に、水に溺死(オボレシニ)たるものよりも、却(カヘツ)て回復(イキカヘリ)易(ヤス)し、これ を療(レウ)ずるには、前 編(ペン)にいへるごとく初に水を潅(アビセ)るか、また は雪塊(ユキノカタマリ)もしくは氷を取て、手足より逆(サカシマ)に肩(カタ)背(セ)胸(ムネ)腹(ハラ)に至 るまでを、頻(シキリ)に摩擦(サスリ)て試(コヽロム)べし、地を堀(ホリ)て頭面のみを出て、 項(ウナジ)より頭後(アタマ)までを土に埋(ウヅム)べきことを前編にはいへど、北地 蝦(エ) 夷(ゾ)の雪ある処(トコロ)にては、深雪(ユキ)の中へ全身を埋(ウヅメ)て、唯(タヾ)面部(メンブ)のみ

現代語訳

【右丁】 治療を施して効果を得られるのは、呼吸が絶え、耳目口鼻の働きも絶えたようであるが、静かにこれを観察すると、唇が微かに動くもの、蝋燭の火を取ってその顔を照らせば、瞳孔が収縮し、蝋燭の火を遠ざければ、再び拡大して元のようになるもの、みぞおちを診察すれば、指先に微温を感じるもの、鳥の羽もしくは蝋燭の光を口鼻に近づければ、鳥羽もしくは蝋燭の光が微かに動くもの、口を耳に寄せてその名を呼べば、顔の筋肉が微かに動くもの、眼の左であれ右であれ、一眼は開き一眼は閉じているもの、頬に時折僅かに赤みを現すもの、眉の上の肉を指で押せば窪むが、これを放すと、次第に元に戻るもの、この八つの徴候のうち一、二の反応があれば、速やかに治療を施すべきである。凍死した者 【左丁】 を急に温めようとして火に近づけたり、温かく覆ったりすると、回復すべき息も出ることができずに、ついに死んでしまうものである。もともと凍えて手足が硬直になり息が絶えたのは、酷寒で収縮した気のために呼吸の往来を圧迫し止めたのであって、内臓に障害がないゆえに、水に溺死したものよりも、かえって回復しやすい。これを治療するには、前編で言ったように初めに水を浴びせるか、または雪の塊もしくは氷を取って、手足から逆に肩、背、胸、腹に至るまでを、頻りに摩擦して試すべきである。地を掘って頭面のみを出して、首筋から頭の後ろまでを土に埋めるべきことを前編では言ったが、北地蝦夷の雪がある所では、深雪の中へ全身を埋めて、ただ顔面のみ