翻刻!江戸の医療と養生

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救急摘方 2巻 - 翻刻

救急摘方 2巻 - ページ 85

ページ: 85

翻刻

【右丁】 口を剖(サキ)て爬(カキ)出すにあらねば、治を施(ほホドコシ)がたき故に、截開術(セツカイジユツ) を用るなり、もし近く創口にあるものは、これを剖(サク)にも およばず、喞筩(ミヅハヂキ)を以て洗ても、衣服の裂(サケ)たるは出るなれば、 《振り仮名:破陶、砕鉄|セトモノテツノクダケ》《振り仮名:々丸|タマ》の類は、鑷子(ケヒキ)、鉄篦(テツベラ)、及前編に図(ヅ)を出したる 雙鉤鈀子(タマカキ)、【鈎は俗字】鵞嘴鑷子(タマスクヒ)などの類を以て出すべく、指頭(ユビサキ)を容(イレ) らるべくば、指(ユビ)にて搔(カキ)出して後に、水、もしくは水に愈創水(ユサウスイ) を加たるものを以てこれを洗て後、末に出したる防腐(バウフ)水、 又は愈創水の類を、棉撤糸(モツシモメン)【「ホツシモメン」の誤記 注】に蘸(ヒタシ)てこれを納(イレ)、その佗(ホカ)は金 創の治法に従(シタガフ)てよし、截開(キリヒラク)には、外科には種々(サマ〳〵)の器械(ダウグ)あ れども、俗家にて倉卒(ニハカ)のときには、剃頭刀(カミソリ)又は小 柄(ヅカ)の類を 【注 ほっしもめん=糸をほぐした綿布。薬液に浸して傷口に当てる。めんざんし。ほどきもめん。】 【左丁】 用てもよし、また銃丸(タマ)幸(サイハヒ)にして骨に中らず、肉中を洞徹(トホリ) て呑口(イリシクチ)と吐口(デタルクチ)と出入の両口あるものは、その呑(イリタル)口は小さく吐(デタル) 口は大なれば、その中の血の凝結(カタマリ)たるものを、吐口(デタルクチ)のかたへ 洗おとして後に、棉撤糸(ホツシ)を入、前後の口を、膏 若(モシ)くは鶏蛋(カスガ) 棉(ヒ)若(モシ)くは圧棉(スモメン)を充(アテ)て裹縛(マキモメン)すべし、《割書:すべて前編|に出せり、》その創口 の周囲(マワリ)は、冷水または水に醋(ス)と磠砂(ドウシヤ)少 許(バカリ)を加たるもの を以て冷たるまゝを手巾(テヌグヒ)に浸(ヒタ)し、裹縛(マキモメン)したる後も、頻(シキリ)に 洗(アラヒ)て、皮肉の熱(ネツ)を去(サル)べし、或は摺布(タヽミモメン)に醋(ス)と磠砂(ドウシヤ)を加たる 水を蘸(ヒタシ)たるを創処(キズグチ)に罨(オホヒ)、をり〳〵とりかへたるもまたよし、 これはその劇熱(ハゲシキネツ)を発(ハツ)して、膿(ウミ)を催(モヨフサ)んとするを防(フセグ)が為

現代語訳

【右丁】 口を切開して掻き出さなければ、治療を施すことが困難であるため、切開術を用いるのである。もし創口の近くにあるものは、これを切開するまでもなく、注射器で洗っても、衣服の裂けたものは出てくるので、陶器の破片や砕けた鉄、弾丸の類は、鑷子(ピンセット)、鉄べら、および前編に図を出した双鉤鈀子(弾取り器)、鵞嘴鑷子(弾掴み器)などの類で取り出すべきである。指先を入れることができれば、指で掻き出した後に、水、もしくは水に創傷治療薬を加えたもので洗浄した後、末尾に出した防腐水、または創傷治療薬の類を、ほぐした綿布に浸してこれを入れ、その他は刀傷の治療法に従えばよい。切開には、外科には種々の器械があるが、一般家庭で緊急のときには、剃刀または小柄の類を 【左丁】 用いてもよい。また銃弾が幸いにして骨に当たらず、肉中を貫通して入口と出口の両方の穴があるものは、その入った口は小さく出た口は大きいので、その中の血の塊を、出口の方へ洗い流した後に、ほぐした綿を入れ、前後の口を、軟膏もしくは卵白綿もしくは圧迫綿を当てて包帯で巻くべきである。その創口の周囲は、冷水または水に酢と硝石少々を加えたものを冷たいまま手拭いに浸し、包帯をした後も、頻繁に洗って、皮肉の熱を取り去るべきである。あるいは畳んだ綿布に酢と硝石を加えた水を浸したものを創傷部に覆い、時々取り替えるのもまたよい。これはその激しい熱を発して、膿を催そうとするのを防ぐためである。

英語訳

【Right Page】 Since treatment is difficult unless the wound opening is cut open to scrape out the debris, surgical incision is used. If fragments are near the wound opening, there is no need to make an incision; even washing with a syringe will remove torn cloth pieces. For pottery shards, iron fragments, and bullet fragments, they should be removed using tweezers, iron spatulas, and the double-hook extractors and goose-beak forceps illustrated in the previous volume. If fingers can be inserted, scrape out with fingers, then wash with water or water mixed with wound healing solution. After that, soak lint cotton in the antiseptic water or wound healing solution mentioned at the end and insert it. For other treatments, follow the methods for treating sword wounds. For incisions, surgery has various instruments, but in emergencies at ordinary homes, razors or small knife handles may be used. 【Left Page】 Also, when bullets fortunately do not hit bone and penetrate through flesh creating both entry and exit wounds, since the entry wound is small and the exit wound is large, wash the blood clots toward the exit wound, then insert lint cotton and cover both openings with ointment, egg-white cotton, or pressure cotton, wrapping with bandages. Around the wound area, soak a hand towel in cold water or water with a little vinegar and saltpeter, keeping it cold, and even after bandaging, wash frequently to remove heat from the skin and flesh. Alternatively, covering the wound with folded cotton cloth soaked in water mixed with vinegar and saltpeter, changing it occasionally, is also good. This is to prevent the development of severe heat that would promote suppuration.