翻刻
【右丁】
打(うち)ならせば。酒(さけ)は上戸(じやうこ)の機嫌(きぐん)にまかせ。やたらに螺(ほら)を
吹(ふき)たてゝ。去来混雑(いざこざ)すでに出来(でき)んとす。然(しか)る所(ところ)へ
霹靂一声(へきれきいつせい)高天原(たかまがはら)より大音(だいおん)に。しばらく〳〵の
声(こゑ)と共(とも)に。天(あめ)の八重雲(やへぐも)をいづの千別(ちわき)におしわけ。
日(ひ)の若宮(わかみや)の霞(かすみ)の御簾(みす)を。さふ〳〵と捲(まき)あぐれば。
大千世界(たいせんせかい)の本主(ほんしゆ)大日天子(たいにつてんし)光明赫々(くわうみやうかくやく)として
高御座(たかみくら)におはします。左右(さいう)につらなる百官(ひやくくはん)には。
明晨烏大尽(あけぼのゝうたいじん)。東雲茶大甚(しのゝめのちやだいじん)。横雲帯奈権(よこくものたいなごん)
【左丁】
村雲中名言(むらくもちゆうなごん)。初雪少々(はつゆきせう〳〵)。霙細少(みぞれのさいせう)。黄昏豊籏卿(たそがれのとよはたきやう)。
夕霧風速卿(ゆうぎりのかざはやきやう)。左代弁春雨(さだいべんはるさめ)。右代弁糠雨(うだいべんぬかあめ)。天河原(あまのがはらの)
彦星(ひこほし)。其外(そのほか)二十八宿(にしふはつしゆく)。九曜星官(くようせいくはん)。五方羯諦(ごほうぎやうてい)。四直(しちよく)
功曹(こうそう)。馬張(ばちやう)。温関(うんくはん)。の四元師(しげんすゐ)より雷公雷母(らいこうでんぼ)にいたる
まで。あられの如(ごと)く並(なら)び。露(つゆ)のごとく日光(ひかつた)たり。かくて
雷公稲妻(らいこういなつま)の鞭(むち)をとり。風神(ふうじん)大(おほ)うちはをさし揚(あげ)
猶(なを)も東西(とうざい)〳〵と警蹕(けいひつ)せしは。あきれて見(み)
あぐるばかりなり