翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: コレクション3

繪本不盡泉 - 翻刻

繪本不盡泉 - ページ 11

ページ: 11

翻刻

  泣上戸(なきじやうご) 泣上戸とて酒(さけ)さへのめば其侭(そのまゝ) 直(すぐ)になくものにあらず抑(そも〳〵)酒は 人(ひと)の本性(ほんしやう)を顕(あら)わす物(もの)なれば つね〳〵こゝろに不平を 懐(いだく)かまたは人を恨(うらむ)るか 内心(ないしん)にくや〳〵と おもふ折節(おりふし)おもしろ おかしふこゝろの合(あふ)た 友達(ともたち)に口々(くち〳〵)あふた 呑(のめ)る肴(さかな)吸(すい)ものの 加減(かけん)もよくくつと 呑るといふ段(だん)に なつて常(つね)よりは ひとしほよひも 廻(まは)りうき世(よ)の 雑談(さうたん)人(ひと)のとり ざたかうふつ と我(わが)おもふ恨(うら)みのつぼゑ おつるやいなや心(こゝろ)に おもふありたけを たくりかけ〳〵玉(たま)を あさむくあらなみだ 人(ひと)の見る目(め)も 外聞(ぐわいぶん)も わすれはてゝ 泣事(なくこと)なり  是(これ)全体(せんたい)正直(せうじき)    なる生(うま)れ附(つき)きに 肝積(かんしやく)とへんくつを調合(てうかう)し しかも大酒(おうさけ)する人ならでは         泣場処(なくはしよ)には至(いた)らぬ也

現代語訳

泣き上戸 泣き上戸といって、酒さえ飲めばすぐに泣くというものではない。そもそも酒は人の本性を現すものであるから、普段から心に不平を抱いているか、または人を恨んでいるか、内心に悔しいと思う時に、面白おかしく心の合った友達と口々に会話し、飲める肴や吸い物の加減もよく、ぐっと飲むという段階になって、普段よりもひとしお酔いも回り、浮き世の雑談や人の取り沙汰などがふっと我が思う恨みのつぼに落ちるやいなや、心に思うありったけを絞り出し、玉を転がすような涙を流し、人の見る目も外聞も忘れ果てて泣くことである。 これは全体的に正直な生まれつきに肝癪と偏屈を調合し、しかも大酒をする人でなければ、泣く場面には至らないのである。

英語訳

The Crying Drinker A crying drinker is not someone who simply starts crying as soon as they drink alcohol. Since alcohol fundamentally reveals a person's true nature, those who usually harbor discontent in their hearts, or hold grudges against others, or feel frustrated inside—when they find themselves in pleasant company with like-minded friends, engaging in lively conversation, with good food and soup to accompany their drinks, and they drink deeply—become more intoxicated than usual. When casual talk about the floating world and gossip about people suddenly strikes the core of their resentments, they pour out everything in their hearts, shedding tears like rolling pearls, forgetting how others see them and their reputation, and break down crying. This only happens to people who combine an essentially honest nature with irritability and stubbornness, and who are also heavy drinkers—only such people reach the point of crying.