翻刻
殺罰(さつはつ)上戸(じやうご)
殺罰(さつばつ)は侠者(きやうしや)の業(わざ)にて
おそるべきの甚(はなはだ)しき
物(もの)なり酔(よひ)に乗(じやう)しては
釼刀(けんとう)を振(ふつ)て人(ひと)と
閙(あらそ)ひこぶしを揚(あけ)て互(たがい)に
打合(うちあ)ひ或(ある)は傷(きず)を
かふふり命(いのち)を
うしなふかゝる上戸(じやうご)
あるをもつていたづらに
酒(さけ)の名(な)をけがす凡(およそ)酒(さけ)は
百薬(ひやくやく)の長(ちやう)にて愁(うれ)ひを
わすれ思慮(しりよ)を少(すく)なから
しめ不 老長寿(らうちやうじゆ)のものなれば
聖人(せいじん)も量(はかり)なけれども乱(らん)に
及(およは)ずとの玉(たま)ひて和漢(わかん)ともに
尊(たつと)び用(もち)ひ来(きた)る事(こと)年久(としひさ)し
さるたふとき徳(とく)ある酒(さけ)を
おのれが侠(きやう)にまかせ悪名(あくみやう)を
冠(かうむら)じむるは実(しつ)にさけの
罪人(ざいにん)なり酒好人(さけこのむひと)
風流(ふうりう)を
心(こゝろ)にたしなみ
慎(つゝ)しみて
酔(よひ)狂(くるひ)の
行(おこな)ひ
あるべからず
現代語訳
殺罰上戸
殺罰は侠客の行いであって、最も恐るべきものである。酔いに任せて剣刀を振るって人と争い、こぶしを上げて互いに殴り合い、あるいは傷を負ったり命を失ったりする。このような上戸がいるために、いたずらに酒の名を汚すのである。
そもそも酒は百薬の長であって、憂いを忘れさせ、思慮を少なくし、不老長寿のものである。聖人も「量はないけれども乱に及ばず」と仰って、和漢ともに尊び用いてきたことは年久しい。
そのような尊い徳のある酒を、自分の侠気に任せて悪名を着せるのは、実に酒の罪人である。酒を好む人は風流を心に嗜み、慎しんで酔い狂いの行いがあってはならない。
英語訳
The Violent Drinker
Violence is the way of ruffians and is most fearsome. Carried away by drunkenness, they brandish swords and fight with others, raise their fists to beat each other, sometimes suffering wounds or losing their lives. The existence of such drinkers needlessly sullies the name of alcohol.
Originally, alcohol is the chief of all medicines - it makes one forget sorrows, lessens anxiety, and promotes longevity. Even sages have said "Though there is no set measure, one should not reach the point of disorder," and both Japan and China have honored and used it for ages.
To bring disgrace upon such noble and virtuous alcohol by indulging one's rough temperament makes one truly a criminal against sake. Those who love alcohol should cultivate refinement in their hearts and exercise restraint, never engaging in drunken and mad behavior.