翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: コレクション3

うそなるべし - 翻刻

うそなるべし - ページ 13

ページ: 13

翻刻

【右丁】  いふ人(ひと)殊(こと)に剣(けん)の名人(めいじん)なりしかれども容易(ようい)に  細工(さいく)出来(でき)あがる事なし或男(あるをとこ)この人(ひと)に刀(かたな)を  頼(たの)みけるとき能(よき)時分(じぶん)やら早速(さつそく)に出来(しゆつたい)せ  りことの外(ほか)よろこび彼(かの)鍛冶(かぢ)をまねき馳(ち)そう  すべきと其友(そのとも)なる人(ひと)に好(この)めるたべ物(もの)をきゝ  あはせけるに彼人(かのひと)とかく何事(なにごと)も油(あぶら)にて製(せい)し  たる物(もの)をこのめりといひけるにそれより豆(とう)  腐(ふ)をしぼりさま〴〵の青物(あをもの)かんぶつもの等 【左丁】  種々(しゆ〴〵)いれて油(あぶら)にて美味(びみ)に料理(りやうり)し酒(さけ)飯(めし)を  とゝのへかの鍛冶(かぢ)をもてなしける客(きやく)ことの外(ほか)  よろこびて是(これ)まで己(おの)れも知(し)らざる所(ところ)の菜(さい)也  これは此(この)ほどの剣(けん)【剱は古字】のちんかとほめしより  剣賃豆腐(けんちんとうふ)なるべし  ちなみにいふむかし天下(てんか)おふいにかんぱつ  のせつ  天子(てんし)より或(ある)僧(そう)に雨(あま)ごひの和謌(わか)  よみ候やう仰(おほ)せ付(つけ)らるゝ其哥(そのうた)の徳(とく)にて雨(あめ)たゞ

現代語訳

【右丁】 という人で、とりわけ刀剣の名人であったけれども、簡単に細工が出来上がることはなかった。ある男がこの人に刀を注文したとき、よい時期だったのか早速に出来上がった。ことのほか喜んで、その鍛冶屋を招いてご馳走すべきだと、その友人にあの人の好む食べ物を聞き合わせたところ、あの人はとにかく何事も油で調理したものを好むと言ったので、それより豆腐を絞って、さまざまな青物や乾物など 【左丁】 種々入れて油で美味に料理し、酒や飯を整えてその鍛冶屋をもてなした。客はことのほか喜んで「これまで自分も知らなかった料理である。これはこの度の剣の代金だ」と褒めたので、「剣賃豆腐(けんちん豆腐)」なるべし。 ちなみに言うと、昔天下が大いに干ばつの節、天子よりある僧に雨乞いの和歌を詠むよう仰せ付けられる。その歌の徳によって雨がただ

英語訳

【Right Page】 was a person who was particularly a master of sword making, but his craftsmanship was never easily completed. When a certain man commissioned a sword from this person, perhaps it was a good time, as it was completed promptly. Overjoyed, he decided to invite the smith for a feast and inquired of his friend about what foods that person preferred. When told that the man particularly liked anything prepared with oil, he squeezed tofu and added various vegetables and dried goods 【Left Page】 of many kinds, cooking them deliciously in oil, and prepared sake and rice to entertain the smith. The guest was extremely pleased and praised it, saying "This is a dish even I have never known before. This is the payment for this sword!" Therefore, it should be called "kenchin tofu" (sword-payment tofu). Incidentally, long ago during a great drought throughout the land, the Emperor ordered a certain monk to compose a waka poem for rain prayers. By the virtue of that poem, rain just