翻刻
【右丁】
残念是悲〳〵爰にて日和を待へしと云けるに
梶取新七心得かたくや思ひけん程ちかく
かくり居たる船にこへをかけ此天気各々は
何と思ふやと尋けれはとなりの舟の梶取答て此
天気甚た覚束なし日暮ても此もやう
ならは箒浦に戻すへし左あらは火を二つ
表にともすへし元の方へも戻しがたく沖
の方へ出るならは火を一つともして出るへしと
【左丁】
約束せり日暮に成て数艘の舟皆火を二つ立て
元来し方へ戻しけるしからは此舟も戻す
へしといふ親父分仁兵衛中〳〵合点
せす今しはらくと留ける其ほとり【内にヵ】は類舟
残らず走り戻るに今爰に残りし舟は残の
しまの村丸と此伊勢丸と只二艘のみなり
扨日もとくと暮けれは心細くも只二艘風の
替るを待居しに四方の気色弥悪敷打