翻刻
【右丁】
ことくして朝夕の日輪金光をてらし山
又金色にしてひかりをはなち其様たとへる
物なし扨十月十五日には宵より天気よかり
しゆへ卯の刻斗りに小渕の湊を出舟して
十五四(下上)里程は走りしか沖にて風向ひけれは
箒の浦に舟を留ける同十九日寅の刻に
爰を出船して風もよきほとふいて
奥州と常州とのさかい塩家の
【左丁】
于時明和元甲申年事也
【この「于時…」の一行は後から書き足したか】
岬に船を留ける晩景になりけれは空
の気色悪しく成り海の面も只なら
ず是に依て船中とり〳〵の相談しける何
れも一旦箒浦へ舟を戻すへしといへ
ども親父分の仁兵衛同意せず各々左
程に恐れ給ふ事にも及はずこの頃の日和
くせなり今宵の塩には風もかはるへしせつかく五十里
の海上来りながら又箒浦まて戻すはあまり
【塩家岬は福島県塩屋埼灯台のあたりヵ】