翻刻
【右丁】
みなれぬ草木はへ茂りけり此地に元舟を乗
すて橋舟に衣類小道具積うつし南の方こ
ぎ廻る此六七日は一向喰事にたへ労れ入たる事
なれは漕手もはか〴〵しく押も得ず少し
の向ふ風に吹戻されて又弐里計戻されける
扨また左つ【辰のヵ】方に海上十四五里計り向ふに地方
有此方へは追風なるゆへ橋舟を是え打向て
風と潮とに任せて行けるに思ひ之外早く浜辺に
【左丁】
着にけり扨浅辺にはまゆみのことく成る木海中
よりはへ茂り岩はそひへて見れぬ草木有り
葛はびこりて綱を引たる如く也爰ゐはいかな
る国か嶋か人家も見へす此地にて廿人一同に
死すへしと衣服(イフク)をあらため守り袋紙入迄
懐中し浜辺上り石をひろいまくらとして皆々
爰に伏しにけるはあはれなる事ともなり此所を
後に聞ば南天竺之内にてほろねをと言国