翻刻
《場所:ふか川》の
みぶ#1が
はやると
《場所:両ごく》
へも
でき
となりで
ちう
しん
くらを
すると
こつ
ちも
忠臣
くら
十二文のちやつけみせは
とこがほんけやら
忘れなくなり
《場所:じやうしう》で【上州で】
八丈をにせ
れば#2
《場所:八王子》でも
おり出す
なか〳〵
ゆだんは
ならず
われおとら
じと
おつかふせる
よの中
つりふねの
平次が
人魚をなめ
させて大金
をもうけ
ればその
となりの
ていしゆ
よくしん
ものにて
やがてあん
じ付
女ほうの
山のかみが
ふくら
すゝ
めの
やうな
つらへおしろいをこて〳〵とぬらせむねから
下へうちのこぞうが五月のこいのふき
なかしをとり出してはかまにはかせ
にた山#2にん魚にしたててこと〳〵しく
かんばんを出し一なめ二百文つゝのやす
うりを出しかけれどもこいつはさぎを
からすにたかをちうさんなんぼ
こけな俗物(ぞくふつ)でもその手は
こぬゆへていしゆやけをおこして
ふうふげんくわをおつはしめる
〽うぬがきが
きかねへから
はやらねへは
このふんばりめ
はりさけらァ
〽マアこいの
きものを
ぬいでから
ぶたれやう
はなしねへ
〳〵
なにはり
さけるへ
きいたふうな
はりさける
とは
このごろ
よしはらの
はやりことばかへ
そんな事は
しらねへ
こつちやァ
このふき
ながしが
はりさけらァ
〽おいらは
しらぬ
かゝさんは
ように
おとゝに
なつた
おいらは
しらぬ
現代語訳
深川の壬生狂言が流行ると両国へも出来、隣で忠臣蔵をすると、こちらも忠臣蔵。十二文の茶漬け店は、どこが本家やら分からなくなり、上州で八丈を偽造すれば、八王子でも織り出す。なかなか油断はならず、我負けじと追いかぶせる世の中。
釣り船の平次が人魚を舐めさせて大金を儲ければ、その隣の亭主も欲深い者で、やがて思いついた。女郎の山の神が膨らんだ雀のような顔へ白粉をべったりと塗らせ、胸から下へ家の小僧が五月の鯉の吹き流しを取り出して袴に履かせ、似た山人魚に仕立てて、ことごとしく看板を出し、一舐め二百文ずつの安売りを出しかけた。けれどもこいつは鷺を烏に、鷹を雀。いくら愚かな俗物でもその手は食わぬゆえ、亭主は焼けを起こして夫婦喧嘩を始める。
♪お前が利かねえから流行らねえ。この頑張り女、張り裂けろう。
♪まあ、この着物を脱いでから殴られよう。話にならない。
「何、張り裂けろだと。気取った風な『張り裂ける』とは、この頃吉原の流行り言葉。そんな事は知らない。こちらはこの吹き流しが張り裂けろうだ。」
♪俺は知らぬ。かかあはようやく男になった。俺は知らぬ。