翻刻
【右丁】
諸善万徳(シヨセンマンドク)ノ源(ミナモト)也 法性(ホツシヤウ)ハ
無智亦無徳(ムチヤクムトク)ト説(ト)ク然(シカ)ラハ
無智亦無徳(ムチヤクムトク)ノ処(トコロ)ヨリ如(イ)
何(カン)トシテ此(コノ)天地 万像(マンザウ)ヲ造(ザウ)
作(サ)セン其 ̄ノ上(ウヘ)今日(コンニチ)ノ我等(ワレラ)ニ
アル慮智(リヨチ)分別(フンベツ)ハ本源(ホンゲン)ニ智(チ)
徳(トク)アラスンハ何(ナニ)トシテカアルヘキ
破(ハシテ)云 提宇子(ダイウス)ハ真理(シンリ)ヲ弁(ワキマ)
ヘス法性(ホツシヤウ)ハ無智無徳(ムチムトク)ト聞(キイ)
テハ不可(フカ)也ト思(ヲモフ)テ捨(スツ)_レ之(コレヲ)Ds(デウス)
【左丁】
ニ智徳(チトク)アリト聞(キイ)テハ可(カ)也ト
思(ヲモフ)テ取(トル)_レ之 ̄ヲ待(マテ)我(ワレ)汝(ナンヂ)ニ真理(シンリ)
ヲ説(トイ)テ聞(キカ)セン先(マツ)無(ム)ノ一字( シ)ニ
モ不可思議(フカシギ)ノ謂(イワ)レアリ無(ムノ)
字(シ)鉄関千万重誰抜這
字徹那辺トアレハ無(ム)ノ一
字(シ)モ提宇子(ダイウス)底(テイ)ノ人ノ知(シル)ヘ
キ義(ギ)ニアラスヨシ又(マタ)無智亦(ムチヤク)
無徳(ムトク)ノ語(コトハ)字面(シメン)ノ如(コト)クニモセ
ヨ無智無徳(ムチムトク)コソ真実(シン )ナレ
現代語訳
【右丁】
諸善万徳の源である。法性は無智また無徳と説く。然らば無智また無徳の処より、如何にしてこの天地万象を造作せん。その上、今日の我等にある慮智分別は、本源に智徳あらずんば、何としてかあるべき。
破(反論)して云う。デウスは真理を弁えず、法性は無智無徳と聞いては不可なりと思って、これを捨ててデウス
【左丁】
に智徳ありと聞いては可なりと思って、これを取る。待て、我、汝に真理を説いて聞かせん。先ず「無」の一字にも不可思議の謂れあり。「無の字は鉄関千万重、誰かこの字を抜いてかの辺を徹せん」とあれば、「無」の一字もキリシタン程度の人の知るべき義にあらず、よし。また無智また無徳の語、字面のごとくにもせよ。無智無徳こそ真実なれ。