翻刻
馬は日本と替る事なし。山坂または石原を行に蹶(ツマヅカ)
ず。山に上り。水を渉(わた)れば馳(ハス)。是自然に其土地に馴た
れはなり此地四季ともに暖気にして。冬も草の枯る事
なきによりて終歳春草を食ふかるかゆへに豆を食はす
るに及ばす民家にて馬の入用なる時は。野より牽入用事
過れば野へ放すとなり鞍鐙其外とも日本の馬具に
かはる事なし。唯【?】小紐の下と。むなかひに紅の糸にて
作りたる。丸き房を付るなり
飾馬之図
此外舞には。扇曲(あふきのきよく)《割書:童子六人|にて舞ふ》掌節曲(てひやうしのきよく)《割書:小童三人|にて舞ふ》などゝいふ
舞あり
楽には
太平調(たいへいちやう) 長生苑(ちやうせいゑん) 芷蘭香(しらんかう) 天孫太平歌(てんそんたいへいのうた)
桃花源(とうくはげん) 楊香(やうかう) 寿尊翁(じゆそんおう)
是等の外。数曲あり此内桃花源。楊香は明楽(みんらく)なり寿
尊翁は。清朝の楽なり。又神哥といふ物あり日本の式三
番の如く国楽を奏する始に一老人の形に打扮(いでたち)。場に
登りて此曲を舞ふ。此国混沌のはじめ。世を御したる
神垩天孫氏。世〳〵の国王位に登る毎に形を現じ
て霊祐を示す。すなはち迎神の歌を製して。もつて
これを歓楽(くわんらく)す後世にいたりて神しば〳〵形を現ぜず。
故に神代より送りたる唱哥を伝へて。国王即位の
時か。格別の儀式ある時此曲を行ふ。神哥を唱ふる
間は管弦ともに声を出さずとなん
○俳優
舞楽に続て俳優(わざおぎ)あり。其狂言に。鶴亀といへる兄
弟の童。父の仇を復したる古事あり。日本の曽我