翻刻
兄弟の敵討に髣髴(さもに)たり昔琉球国中城といへる
所の按司(あんず)。毛国鼎(もうこくてい)といへる人。忠勇にして国を治む。其
ころ勝(かつ)連の按司。阿公といふ者。若うして郡馬(くんば)といふ
職になり国王の覚へ目出度かりしまゝ。甚■■を
極めしが。内心毛国鼎を忌(いみ)けるにより弁舌を。功にし
て国王に讒(ざん)をかまへ。毛国鼎/叛逆(ほんぎやく)の企(くはだて)有と奏聞し
ければ。国王/且驚(かつおどろ)き且/怒(いか)り。一チ応の吟味にも及はず。則(すなはち)
阿公に軍兵を授け。毛国鼎を攻討しむ。毛公無矢【?】の
罪を歎くといへども阿公一■に取あへねば今は是までと
思ひ明らめ。遂に自殺【?】をそなしにける。毛公に二人の
子あり兄を鶴といふ十三歳。弟を亀といふ十二歳。二
子別て伶俐(れいり)なり。父毛公。平日(つね〳〵)宝剣二振を以て是
に撃剣(けんじゆつ)を教(おし)へ。小腕ながらと其業においては。大人中も
おとらぬ様に仕立ける。此折■は母に従ひて。山南の査
国吉といへる。親属(しんるい)の方に出けるが。父毛公。阿公か讒(ざん)
言(げん)に依て。討手を引■無念の死を遂たると聞。天に
仰き。地に伏て涕泣せしが。■を払ひて母に請(こひ)け
るは父上の■■は。今更歎きて返らぬ■なれは。われ〳〵
兄弟面躰を見知られぬを幸に。忍ひよりて阿公を討
取。父の仇を復せんと存するなり願くは父上の秘蔵ありし
二振の宝剣を賜はらんと思ひ込て願ふるぞ。母は憂(うれい)も
打忘れ。けなげにもまうしつる兄弟かな。いて〳〵望の如く
二振の剣をあたふべしとて取出して分ち与ふ。兄弟
勇んで暇(いとま)を乞。父の紀念(かたみ)の宝剣を帯しつゝ。身をやつ
して勝連に至り。父の仇をぞねらひける。扨も阿公は
日比心憎かりし。毛公を失ひければ。今は誰にも憚らず春
の野つらを詠めんと従者(しうしや)を引連出けるを。兄弟早く
も聞出し。宝剣を懐にし。透間(すきま)もあらばと伺ひける阿
公は二人の小童を毛公が子とは夢にも知ず扨しほら
しき小冠者かな是へ参つて酌(しやく)いたせと。膝元へ招きよせ
兄弟が容皃(やうほう)の麗(うる)はしきに心乱れ。数献(すこん)の酒を傾(かたむ)けし
が酔興のあまり着せし所の衣を脱兄弟に分ち与へ。
■も足(たら)すや思ひけん。佩(はい)たる所の剣を鶴にあたふ。鶴
今は能図【?】なりと。弟に目くばせし。其剣を■手も見
せずと寄て阿公に組付。われ〳〵を誰とか思ふ。汝か讒
言に依て自殺【?】なしたる毛国鼎が二人の子なり。父の